『光のとこにいてね』(一穂 ミチ)
『光のとこにいてね』(一穂 ミチ)

女性同士の運命的な愛の物語

「熱海で温泉につかりながら、友達と絶景を眺めたときに、この風景は、男女の関係なら見られないんだな、と思ったのが、この話の始まりでした」

『スモールワールズ』で吉川英治文学新人賞受賞、本屋大賞第3位になった一穂ミチさん。注目の新作は、二人の女性の四半世紀にわたる愛の物語である。BL小説でも熱い支持を受けてきた一穂さんだが、女性がメインの話を書きたいという思いがあった。

「今作は、シスターフッド小説ではありません。彼女たちは、同じ方向を向いているわけではなくて、お互いだけを見ている。非常に閉じた関係の二人なんです。ともに乗り越える壁も、手を取り合う戦いもないんですね」

 母親にこっそり連れ出された先の団地で、果遠(かのん)という少女に出会った小学二年生の結珠(ゆず)。同じ年の二人は、結珠の母親が「ボランティア」と称して秘密の行動を取るのを待つ間に、団地で遊ぶ仲となる。

 裕福な家庭だが、家族に顧みられることのない結珠と、母子家庭で、隣人女性の飼うインコだけが慰めの果遠。

「家庭の中の苦しみは人においそれとは話せないですよね。でも、結珠と果遠は、お互いにいちばん苦しい部分を知っている相手。大変だねと言葉にしなくても、なんとなくわかってくれて、傍にいてくれる存在なんです」

 互いを必要とし合っていたのに、自らの意思と反して、突然の別れを迎えた二人は、進学先の高校で再会を果たす。お互いの成長と感情の変化に戸惑いつつも、新しい関係を築こうとするが、ふたたび引き離されてしまう。

 やがて、小学校教師になった結珠は、体調を崩して休職してしまう。夫と移住した先で、またしても運命的に出会ったのは、結婚し、夫と、娘と三人で暮らす果遠だった。

「1章から2章で8年、そして3章までで、さらに倍近い時間が流れています。少女から大人になる過程で、二人の環境が大きく変わるのには、それだけの時間が必要だと思いました」

2022.12.12(月)
文=「オール讀物」編集部