この記事の連載
灯台は海に生きる人々が積み重ねて来た歴史の「ランドマーク」
そんな説明をしながら、光源となる電球が切れた時、自動的に電球が交換される装置も実際に動かしてくれた。それから、壁に映った光に蛇の目の影が出来ているか確認しつつ、レンズと光源が適切な位置に来るようセッティングする様子も見せてくれた。
これも手作業なのか、大変だなあと思っていると、「もうすぐこれも変わってしまうんですけどね」とさらりと言われた。
「フレネルレンズやめちゃうんですか?」
「来年には最新型のLEDに替わるんです。そう思えば、良い時にいらっしゃいましたね」
うまく地上へ下ろすことが出来れば展示されるかもしれないが、今のところはどうなるか分からない。もしかしたらこれが見納めになるかもと言われ、まじまじとレンズを見つめた。
私はもともと、キラキラした宝石が大好きだ。きっと、フレネルレンズを見たら「カットが綺麗~」などと思うものだと想像していたし、実際、美しいと思った。
しかし、特大のレンズを目の当たりにして最初に思ったのは、これは伊達や酔狂で作れるものではないぞ、ということだった。
石造りの塔だってそうだ。これを造るのに、一体どれだけの労力がかかったのだろう。
それから、灯台のあちこちを見て回りながら、色々な話を聞いた。
海にも船のための「道」があること。岩礁を避けるために、赤白緑の灯りを使うこと。かつて、灯台には気象観測などの仕事もあったこと。
灯台守りの仕事ってこんなにあったのか、と次から次に出て来る仕事の内容に呆然としてしまった。
最後に、かつて使われていた官舎の中を見せてくれた。今は使っていないですが、と言いながら電気を付けてくれたそこには、部屋をいっぱいに埋め尽くすほどの機械が並べられていた。
それらを眺めているうちに、自分の中の灯台の認識が、じわじわと変わっていくのを感じた。
正直なところ、灯台巡りが決まった時、私は綺麗なランドマークを見て美味しいご飯を食べられるなんてラッキー、程度に思っていた。だが、実際に灯台にやって来て、その役割を知るに従い、灯台はただ目立つ建物という意味での「ランドマーク」というだけではなく、人の安全を守るため、海に生きる人々が積み重ねて来た歴史の「ランドマーク」でもあったのだと気付かされた。
灯台を設置しなければならない場所は、いずれも海の難所だ。
もともと神社があった場所に、灯台がある意味。祭祀の場となっていた理由には、神頼みにならざるを得ない実情があったのかもしれない。
GPSで役目を終えたと言っていたけれど、逆に言えば、間違いなくこの灯台はつい最近まで、命を守るための努力の結晶で、最先端の形であったのだ。
そういうことに、今更ながら思い至ったのだった。
潮岬灯台
所在地 和歌山県東牟婁郡串本町潮岬2877
アクセス JR紀勢本線串本駅よりバス17分、タクシー15分
灯台の高さ 23m
灯りの高さ※ 49m
初点灯 明治6年(明治11年改築)
https://romance-toudai.uminohi.jp/toudai/shionomisaki.php
※灯りの高さとは、平均海面から灯りまでの高さ。
海と灯台プロジェクト
「灯台」を中心に地域の海と記憶を掘り起こし、地域と地域、日本と世界をつなぎ、これまでにはない異分野・異業種との連携も含めて、新しい海洋体験を創造していく事業で、「日本財団 海と日本プロジェクト」の一環として実施しています。
https://toudai.uminohi.jp/
「海と灯台サミット2022」レポート
灯台の魅力や新たな可能性について意見を交換し合う「海と灯台サミット2022」が11月5日に開催されました。日本財団・笹川陽平会長、海上保安庁・石井昌平長官の挨拶から幕を開け、トークセッション「灯台という物語を未来に届ける」では阿部智里さんが、安部龍太郎さん、門井慶喜さん、日本財団・海野光行常務理事と共に登壇。阿部さんは取材を振り返り、物語と灯台の関わりあいについて、現地の人々との会話を通し歴史を再認識した出来事を語りました。
オール讀物2023年2月号(本屋が選ぶ大人の恋愛小説大賞&大人気読切ミステリー)
定価 1,000円(税込)
文藝春秋
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その土地の物語を読み解く
“灯台巡り”の旅へ
2023.02.12(日)
文=阿部智里
写真=橋本 篤
出典=「オール讀物」2023年2月号
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