――だからだと思いますが、滝沢一家も北原香織も、徹底的に理不尽な目に遭い、苦しみますね。一方で犯人側になかなか罰が与えられないため、胸をかきむしられながらも、先が気になって読んでしまいます(笑)。
私は、いったん登場人物が立ち上がったら、彼らが勝手に喋るのを現場で聞いて取材する形でしか書けないんです。滝沢俊彦、由紀子、殺された朋美、香織の苦しみをすべて背負わなくてはならないし、山岡翔也たちの薄汚い言葉も書き留めなくてはならない。本当は聞きたくもないんですが(笑)。ですから書いていると、いつもぐったり疲れ果ててしまいますね。
――そのように非常にコストを払った書き方を取られているからこそ、伊岡作品には圧倒的なリアリティがあるんだと思います。
最後になりますが、読者に向けて一言いただいてもよろしいでしょうか。
いつも思っていることですが、読者の心に小さな爪痕を残す作品を書くことを心がけています。何年か経って、この作品の何かのシーンが読者の心にふと浮かぶようなことがあれば、私も私が生み出した作品も幸せだと思います。そしてこの物語にはそんな印象に残るシーンがたくさんある、という自信を持っています。ぜひ手に取って読んでいただけると嬉しいです。
2022.12.21(水)
文=伊岡 瞬