彼女の調達人生が世界を救う!?
「もともとビジネス書を読むのも好きで、今回は一休さんのとんち話のような、何か問題解決に挑んでいく人の話を書きたいと考えました」
こう語る恩田陸さんの新刊の主人公は、1970年生まれの梯結子(かけはしゆいこ)。「名は体を表す」という言葉通り、長じては世界中で友好を表すシンボル=橋を架けること、二つのものを繋ぎ合わせることに奔走するようになる。
「子供時代の結子は、映画『大脱走』のジェームズ・ガーナーが演じた〈調達屋〉に憧れ、児童文学『エルマーのぼうけん』では準備した品物が、ことごとくうまい具合に行く先々で役立つことに爽快感を覚えます。そこから私が描きたかった兵站、現代でいうロジスティクス――物流を高度化させ、需要と供給の適正化を図ることに興味を拡げていくんですね」
とはいえ、まだ幼い結子はある季節だけ近所の公園の砂場が混雑したり、誕生日会のプレゼントが華美になりすぎるなど、本人が何気なく「キモチワルイ」と感じた場面で、融通無碍な才能を発揮していく。中学では部活同士の練習場所の確保、高校では夏休みに利用客の減る食堂の集客アップを図るなど、その問題解決および調達人生は実にユニークだ。
「いまの日本は閉塞感でいっぱいだし、現場主義より官僚主義がまん延した結果、実務能力が極端に落ちているのを感じます。そういったところで身近な問題を解決していく結子は、あえて自分より少し年下の設定にしました。昭和的な価値観から逃れて自由な発想ができるし、アナログ世代は経験しつつも、パソコンが出てきて一気に進んだIT化にもスムーズに移行できた世代じゃないかと……」
当初は小説の後半は結子が就職し、ビジネス小説として展開をしていくはずだったという。しかし、著者自身にも想定外の出来事が起こる。
「W大に入ってボランティア活動でもするのかと思っていたら、彼女が城郭愛好研究会に入ってしまって(笑)。いや、そこは色々と兵站を勉強するためにも必要なことだったんですけれど、お城は攻めるのも守るのも難しくて、つい長くなってしまいました。そこでまずは〈青雲編〉としてまとめ、次作で二度の震災を経た結子がどう活躍していくかを書くことにしました。必要なものを必要なところに届ける、一方的な援助だけではない、皆が儲かって自立できるような仕組作りのミッションを達成させたいですね」
曰く「その日まで、世界よ刮目(かつもく)して待つべし!」。本書の底知れないワクワク感は、これからも続いていく。
おんだりく 1964年生まれ。92年『六番目の小夜子』でデビュー。2005年『夜のピクニック』で吉川英治文学新人賞と本屋大賞、17年『蜜蜂と遠雷』で直木賞と本屋大賞を受賞。
2022.12.15(木)
文=「オール讀物」編集部