高校生を描くからこそ託せる物語

 黒田官兵衛が探偵役の『黒牢城』で昨年のミステリー界を席巻し、山田風太郎賞、直木賞を受賞した米澤さん。受賞第一作となる新刊は、ホームグラウンドともいえる青春ミステリーで、『本と鍵の季節』の続編だ。〈小市民〉〈古典部〉など人気シリーズを擁する著者だが、本書はちょっと変わった経緯で生まれた続編だという。

「前作の装丁打ち合わせの際にデザイナーの坂野公一さんが色味の違うものを何案も出して下さって。結果、グリーンに決まったのですが他の色も捨てがたいほど素敵だったので、はじめは冗談で『じゃあ、こちらの案は次巻の装丁で』なんて言っていたんです。構想もないのに(笑)。ところが〈本と鍵〉に呼応するように〈栞と嘘〉という言葉がふと浮かんで。栞を、誰が何のために持つのだろう……と考え始めたら物語が広がっていきました」

 前作からのコンビ、図書委員の堀川と松倉が図書室の忘れ物として見つけた栞にはトリカブトの押し花が使われていた。持ち主を探す二人の前に、美少女として有名な瀬野が現れ、栞は自分の物だと主張するが――。

「今の高校生を書こうとすると、集団の中でうまくやらなければ、という意識が我々の時代以上に強いと感じます。すると、人より“優れている”ということもまた、集団から浮く原因になり得る。突出して美しい瀬野は、自身の美が疎外の理由になることに苦しんでいます。学校という小世界においては、時に賢さや勤勉さがスティグマになるのと同じですね。ただ、これは書き方次第では単なる贅沢な悩みのように見えてしまうのが難しい。ルッキズムという社会問題に一般化するのではなく、どこまでも瀬野個人の物語に徹して書く必要がありました」

 嫌われ者の教師が救急搬送され、毒の噂が校内に流れる。堀川と松倉の協力を受けつつ、自らの意志で栞の謎を追ってゆく瀬野の姿は凜々しく、魅力的だ。“切り札”と称される毒花の栞を必要とするのは、誰なのか。地道な証拠調べと聞き込みを重ねる、捜査小説王道の展開に、高校を舞台とすることで若さゆえの苦さや切なさが加味されている。

「高校生という立場は、一年待つということができない、やるせない焦りを抱えています。家庭の貧困のような、自分ではどうしようもできない問題にもぶつかる。一方で、未来を切り拓く希望が持てる年齢でもあるんです。まだ大人ではない彼らだからこそ、重い結末も託せると思いました」

 謎解きの後のラスト一文まで、瑞々しい力強さに満ちている。


よねざわほのぶ 1978年岐阜県生まれ。2011年『折れた竜骨』で日本推理作家協会賞、14年『満願』で山本周五郎賞など受賞多数。著書に『氷菓』『王とサーカス』など。


(「オール讀物」12月号より)

2022.12.16(金)
文=「オール讀物」編集部