また、「赦し」も大きなテーマです。生きていくことそのものが罪を犯すことである人間が、何かを「赦す」には、自分の奥底を見つめる必要がある。「赦す」に至る過程の大きな葛藤はやはり人間らしいもので、人の心を動かすと思います。

 
 

――実は今回はある程度の量の原稿が元々あったものを、すべて書き直すという形で出版していただきました。端から見ていても大変苦しまれていて、このような作業をお願いしてしまったことには申し訳ない気持ちでいっぱいです。

 この作品は誰かの要請があって書き始めたものではなく、20年以上前に最初に構想を立ててから少しずつプロットを練り、何年もかけて書き上げていった原稿が元になっています。ただやはり、今の自分の目から改めて読み直すと、すべての文章を書き直したくなり、実際に書き直しました。たとえるなら、プロの料理人が途中まで作った筑前煮を出され「これを作り直せ」と言われるようなものです。すでに材料は切られているし煮込まれているし、これを一体どうすればいいの?という気持ちはありました。ひょっとしたら一からすべて書いた方が早かったんじゃないか、と今では思っています(笑)。

――しかし元原稿を書き直す形を取っていただいたおかげだと思うのですが、冒頭から最後まで一気読みするようなストーリーのうねりがありますね。最初に拝読したときはあまりに面白くて読むのが止められず、徹夜で読み通してしまいました。

 最初に構想を立てたのはまだデビュー前でしたので、かえって大胆な発想ができたというのはあると思います。それまでに長年内面に溜まっていたものが一気に迸(ほとばし)ったのかもしれません。当時持っているものは全部出したので、そのエネルギーがいい形で残っているのかもしれませんね。

 ストーリーにうねりがあるとしたら、後に自覚するようになるんですが、書くなら徹底的に、という思いが最初からあったのだと思います。私はハリウッド的ご都合主義が嫌いで、絶望の淵に都合よくヒーローは現れないと思っているんです。人がいったん坂道を転がり落ちたら、壁に激突するか、海にでも落ちないことには止まらないだろう、と思っています。

2022.12.21(水)
文=伊岡 瞬