ベストセラー『代償』をはじめ、『悪寒』『本性』など読者の心を深くえぐる作品を発表し続ける伊岡瞬さん。文春文庫では『祈り』(単行本『ひとりぼっちのあいつ』を改題)、『赤い砂』(書き下ろし文庫)に続く3冊目となる、最新書き下ろし文庫『白い闇の獣(けもの)』がこのほど発売されました。

 舞台は西暦2000年の東京・立川市郊外。冒頭で小学校を卒業したばかりの少女・滝沢朋美が誘拐され、殺される。犯人として捕まったのは少年3人。しかし彼らは少年法に守られ、わずかな期間の少年院入院や保護観察処分を経て、再び社会に戻ってきた。

 4年後の2004年、犯人の1人・小杉川祐一が転落死する。朋美事件後に妻・由紀子と離婚して失踪した朋美の父・俊彦が復讐に動いたのか? 朋美の元担任教師・北原香織はある秘密を胸に転落現場に向かい、そこでフリーライターの秋山満と出会うのだが――。“慈悲なき世界”に生きることの意味を問う、伊岡さんの集大成といえる作品です。


『白い闇の獣』(伊岡 瞬)
『白い闇の獣』(伊岡 瞬)

――冒頭で12歳の少女・滝沢朋美が凄惨な殺され方をします。伊岡さんの作品はオープニング・シーンで一気に読者の心を捉える作品が多いですが、今回も非常にショッキングな始まりですね。このような発想は、どこから来たのですか?

 私は小説を書くときに、まず2つのことを細部まで考えます。1つは主要登場人物のキャラクターや立場、もう1つはストーリーの舞台の設定です。

 実はこの話を最初に構想したのは20年以上前、まだ作家デビューする前のことなんです。その時はまだ長編を一度も書き上げたことがなかったのですが、登場人物たちが極めて理不尽なことに巻き込まれるという話にしよう、という基本構想だけはありました。そしてこの世で最も理不尽なことは何かと考えたときに、親が子供を突然失うという悲劇はその最たるものではないか、と思い至りました。

――理不尽な事件でいえば、子が親を殺される、またはきょうだいや配偶者が殺される、というケースもあり得ると思います。そういうお考えはなかったのでしょうか。

2022.12.21(水)
文=伊岡 瞬