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すべて手探りの中、新生ブリックは進化中
代々木上原に創業40年以上になる老舗の大衆酒場「ジャンプ」という店がある。その店を始めたのは、中島さんのお父様。中島製薬株式会社とは、そのさらに先代が創設した漢方薬の会社だそう。そこに、「閉店してしまった中野のブリックを、なんとか再開できないか?」という話が持ち込まれたのが、約1年前のこと。
旧ブリックのオーナーは、先代のお父様が作り上げたブリックという店にすごく思い入れがあり、また、常連さんからのたくさんの閉店を悲しむ声を聞き、店を残したいという気持ちが強くあって、店舗をしばらくそのまま残していたのだとか。ところが、古い店を改装して再開させようという人はなかなか現れず、とうとう行き着いたのが中島製薬株式会社だった。
失礼ながら、僕は勝手に、もっと大きな企業が「ファンがいるなら商売になる」みたいな感じで受け継いだのかなと想像していたので、中島さんの「すべてが手探り、家族経営でなんとかやってるんですよ」という言葉に驚き、さらにお店のことが好きになった。旧ブリックのメニューレシピはほとんど残っていないそうなので、ノウハウはジャンプのものを利用し、かつ、少しでも従来のファンの方に喜んでもらえるよう、以前の情報を集めつつメニューを精査しているところなのだとか。
店舗の内装にしても、かつての雰囲気がきちんと残っている。けれども、かなり手間隙もお金もかけたし、まだまだ直すべきところはあるのだとか。中島さんに「どれだけご苦労があるか想像できないです。大変ですよね?」と聞くと、笑顔で「はい、大変です(笑)」と返ってきて、そりゃあそうだなと思ったし、それでも前向きに商売を楽しんでいる姿に胸が熱くなった。
おかわりはもちろん「トリスハイボール」。かつての200円から少しだけ値段が上がったが、ジョッキ入りになって量が増えているし、そもそもこの空間でトリスハイボールが飲めるというだけで、顔がにやける。追加で、季節によってレシピを変えるという喫茶系メニュー「大人の生チョコ」も頼んでみた。
口のなかでとろりととろけるチョコレートから、ラムの香り。その濃厚な味わいを、さっぱりとしたハイボールで流す。あぁ、やっぱりここに来ると、自分が小粋な大人の男になれたように錯覚してしまうんだよな。
新生ブリックは、従来のファンに満足してもらえるよう、そしてまた、若い人たちにも気軽に入ってもらい、その貴重な空間を味わってもらえるよう、まだまだ試行錯誤中とのこと。
僕としては、ただこの空間を残してくれたというだけで感謝しかないが、これからまた、中野に行くたびにその進化を見られると思うとわくわくする。
NAKANOブリック
所在地 東京都中野区中野5-6-13
営業時間 12:00~23:00
不定休
パリッコ
酒場ライター・漫画家。酒場好きが高じて会社員から酒場ライターに転身。未知の大衆酒場、ちょっと怪しいとされる店にも果敢に訪れ、心のオアシスを発掘。酒場愛に溢れた文章やイラストは、吞兵衛の心をわしづかむ。酒カルチャー雑誌『酒場人』監修。著書に多数。新刊はスズキナオ氏との共著『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日』(スタンド・ブックス)ほか。
Twitter:@paricco
2022.12.13(火)
文=パリッコ
写真=釜谷洋史