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奇跡のリニューアルオープン!

 ところが、つい1カ月ほど前のことだ。久々に中野で仕事があり、ブリックの前を通りかかると、なにやら店内に電気がついている。それに、あれ? 看板って、こんなに小綺麗な感じだったっけ? 気になって近づいていってみると、なんと! 近日、リニューアルオープン予定と書いてある!

 夢じゃないかしら……と思いつつ、その日はどこかふわふわとした心持ちで仕事を終えて帰った。そしてまた数日後の11月1日、最近どうも縁があるな、と、また別の仕事で中野を訪れたところ、なんとブリックが営業を開始している! 時刻は午後2時くらいだったが、新しいブリックは喫茶&酒場という新しい形態を導入したらしく、12時から営業中のようだった。

 当然、入る。カウンターの店員さんにトリスハイボールをお願いし、「このお店、大好きだったんですよ。まさかまたここで飲めるとは」と伝えると、「ありがとうございます。今日からリニューアルオープンしました」との回答。なんと縁起のいい日に来られたんだろうと、思わずハイボールの杯を重ねてしまった。

 話を聞いてみると、新生ブリックは「中島製薬株式会社」という会社が新たに経営を引き継ぎ、約2年半の時を経て復活したのだそう。製薬会社? なぜ? その際に店員さんに名刺をお渡しし、後日あらためて、新しいブリックの酒やつまみを堪能しつつ、店主の中島さんにお話を聞くことができた。

 ブリックにやって来たらもちろん「トリスハイボール」を飲まないで帰るわけにはいかない。が、新生ブリックは、1階と2階で提供する生ビールを分けていて、僕が今いる2階では、現在では珍しくなった「空冷式サーバー」を使った、サントリー「マスターズ・ドリーム」が飲めるのだとか。樽ごとじっくりと冷やすので、ビール本来の旨味がしっかり感じられるというそれを、どうしたって飲んでみたい。まずはマスターズ・ドリームの生で乾杯といこう。

 うまいビールでのどを潤し、あらためてメニューを眺めて驚く。そのどれもが、中野の一等地にあるとは思えないほどリーズナブルなのだ。また、以前のブリックは、サラミにチーズ、サンドイッチやオムレツなど、いわゆる洋食のつまみがメインだったが、今は、焼鳥もあればフィッシュアンドチップスもある。イカ丸焼きもあれば、ポテトグラタンもある。さらには、サメの軟骨と梅干しをあえた酒場の定番メニュー、梅水晶まである。ずいぶんと酒飲みに対して門戸を開き、かつ幅広い選択が可能な店になったものだ。さらには、王道の喫茶メニューや、「クリームソーダハイ」なんてのまである。

 昔のブリックを知る客からすれば賛否両論あるのかもしれないが、まずこの空間を残してくれただけでありがたいし、そしてこんなにも選択肢豊富に、リーズナブルに飲める店であるという、単純な事実が嬉しい。

 つまみは、220円という驚異的な価格の「ハムカツ」と、「もつ煮込み」をお願いしてみよう。なんと牛すじと豚もつ両方入りの、大ボリュームなもつ煮込みがうまい。厚切りのハムカツも、その値段とは思えない豪華さだし、きちんと千切りキャベツが添えられているようなひと手間に顔がほころんでしまう。なにより、こういう大衆酒場的メニューを、あのブリックの店内で食べているという状況が、なんだかおもしろくて酒がすすんでしまう。

2022.12.13(火)
文=パリッコ
写真=釜谷洋史