この記事の連載

 何かと行く機会が多い、新宿、渋谷、五反田、赤坂――。でも、何度となく通っているはずなのに、意外と行きつけの店がつくりにくい場所でもあります。

 そんななんだか落ち着かない駅にある「ちょうどいい」お店を、酒場ライターのパリッコさんに教えてもらう連載です。今回は、銀座に来たらぜひ立ち寄りたいお店を紹介します。


銀座の一等地にまさかの

 世界的ファッションブランドの旗艦店や高級飲食店が建ち並ぶ、日本を代表する繁華街、銀座。場末の酒場をなにより愛する僕のような者にとってはあまり縁がないというか、正直、ただ歩くだけでも緊張してしまうような街だ。

 ところがあらためて「街」の懐はどこまでも深い。ここにもまた、きちんと銀座らしい格式を保ちつつも、そこまで気負いすることなく(たまのぜいたく感はあるけれど)、ふらりと飲みに寄れる老舗酒場があるのだ。しかも、営業開始の午前10時半から夜まで、通し営業でいつでも!

 駅前エリアの一等地にあり、いかにも銀座らしい上品な風景が広がる「並木通り」。そこを歩いていると、風景のなかに自然に溶け込みつつ、確実に異質なオーラを発する、古き良き大衆酒場がある。

「三州屋 銀座本店」。創業から50年を超える老舗酒場だ。まず、店があるシチュエーションがたまらない。その存在に気づく人は決して多くないであろう、無数にある小さな路地のなかのひとつ。そこを覗きこむと、まるで時代が止まったままのような、味わい深い建物が見える。

 そこはまさに、日常の延長でありながら、非日常の世界。ここに来ればいつだって、浮世を忘れ、うまい肴と酒の世界に酔うことができるのだ。

2023.08.25(金)
文・撮影=パリッコ