「きっとこの中に自分がこれから生きていく指針が詰まっている」

――綾野さんにとって、ご自身の30代はどんな10年間でしたか?

綾野 修行、でしょうか。質よりも量。経験を増やし、実践し学ぶ。量をやったことで質が生まれる喜びや、質だけにこだわることで生まれる諸刃も学びました。色々な人からお声をかけてもらえるようになり、30代はとにかく求めらることに全力で応えることだけを考えていたと思います。

――そんなスタンスの綾野さんにとって、39歳の8カ月分がこの一冊に収められているのはいかがですか?

綾野 ここに収められている期間は、自分が本当に大事にしなきゃいけないパーソナルな部分を操上さんが教えて下さった、学ばせていただいたという感覚が強くあります。

 30代後半から「40代に入ったらどういった仕事の仕方をしたいのか」と仕事や人とのかかわり方について考え始めました。ジョブとライフの関係や「シンプルに生きるとは」を考えていたなかでこういった出会いがあり、きっとこの中に自分がこれから生きていく指針が詰まっている。本当の意味で「どうしたらいいんだろう」と迷ったときに開いたら取り戻せるものがたくさんあるように思います。

 そしてやはり、ただただカッコよくて人間力にあふれた操上さんに出会えたことは自分の人生のターニングポイントですし、これから生きていくうえでとても大切な時間でした。

操上 嬉しいです。

綾野 これは言葉で説明すると難しいのですが――例えば「写真を撮られるときにどれくらいマネキンになれるか」が自分の中でひとつテーマだとして。どこまで空っぽになれるか、表面は固く内面が何を感じているかは想像できないくらいになれたら、と考えていた時期に、操上さんと「GOETHE」でご一緒した際の写真を見たときに、たった一枚のシャッターでそこに達せた操上さん。

 目に光も宿っていなければ表情も宿っておらず、血液が通っているかもわからない。いつ撮られたものかの時代も時間も感じないし、瞬間だけがただある。名前を伏せてしまえば何者でもない、ただの存在。自分にまとわりついているものをたった一瞬ではぎ取って、何もまとわりついていない僕自身を切り取って下さったことに衝撃と感動と愛情を感じました。

 そしてこの頃に、「操上さんが一緒に作品集みたいなことをできたらいいねとおっしゃってくださっている」という話を聞いたんです。それですぐ会いに行き、「実現しませんか」とお話ししたことからこの企画が始まりました。そのときに「ちょうど来年40歳になるので、それまでに撮れるものを撮ろう」という話になった。つまりは結果論です。

「何もないがそこにある」は存在の境地だとするなら、ここまで行けたらどんな景色や世界が待っているのか。いつも感じています。「自分の感情や役の感情といったエモーショナルで説明をしなければならない状態から逃れるには、どうしたらいいのか」をずっとテーマとして片隅に置いていた記憶が、40代になり、少しでも真ん中に置けるよう引き続き探求、追求していけたらと思っています。

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綾野 剛(あやの・ごう)

1982年1月26日生まれ。岐阜県出身。2003年「仮面ライダー555」で俳優デビュー。最近の主な主演作にドラマ「MIU404」、「アバランチ」、映画『影裏』、『ヤクザと家族 The Family』、『ホムンクルス』など。2022 年に主演を務めた TBS 日曜劇場『オールドルーキー』も話題に。


操上和美(くりがみ・かずみ)

1936年1月19日生まれ。北海道出身。主な写真集に『ALTERNATES』『陽と骨』『NORTHERN』『PORTRAIT』、2020年ロバート・フランクに捧げた『April』など。主な個展に「操上和美 時のポートレイト ノスタルジックな存在になりかけた時間。」(東京都写真美術館)、「PORTRAIT」(Gallery 916)、「Lonesome Day Blues」(キヤノンギャラリーS)など。

『Portrait』(ポートレート)

綾野 剛/操上和美
定価:9,900円
※完全受注生産品

2022.10.15(土)
文=SYO
撮影=山元茂樹
スタイリスト=申谷弘美〈綾野剛〉
ヘアメイク=石邑麻由〈綾野剛〉