ふたりのタッグは4作品目。毎度のコメディタッチとは異なる物語

 変幻自在に、どんな人物にもなり切れる俳優の阿部サダヲさん。最新主演作の『アイ・アム まきもと』は、第70回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門で4冠を受賞した『STILL LIFE』(邦題:おみおくりの作法)をベースにした日本版。
阿部さんが演じた主人公・牧本壮は、市役所の「おみおくり係」に勤める、真っすぐでちょっと迷惑な男。

 タッグを組んだ水田伸生監督とは映画作品通算4本目。これまでは『舞妓 Haaaan!!!』や『謝罪の王様』などに代表されるコミカルな作品の印象が強いが、本作は身寄りがなく亡くなった方を牧本がお見送りするストーリー。人間の生死や老後、生き方について思いを馳せるような、温かくも骨太のヒューマンドラマになっている。

 出会いからおよそ20年の気ごころの知れたふたり。作品のことから演技や演出のこだわり、最近観たお勧め作品まで、多岐にわたり語り合ってくれた。

ロケをした山形では「おくりびと 2」と思われていた

――阿部さんと水田監督は長年一緒にお仕事をされていますが、最初の頃と比べて互いに変化を感じたりしますか? 

水田監督 いえ、阿部さんは出会ったころから変わらないです。天狗になってもいいのに、と思うんだけどね(笑)。変わらないのがすごいです。それにしても、阿部さんと出会った頃は、お互いに若かったですよね。「ぼくの魔法使い」だから……。

阿部 20年近いですよね。僕からしたら、水田監督こそ変わらないです。スタッフさんのことをすごく思う方という印象が当時あったんですけど、今でもそうです。あのころからずっと助監督は相沢(淳)さん、最近はカメラもずっと中山(光一)さんで、すごくいいチームだなといつも思います。
すごく思い出深いのが、「anone」のとき、初めて監督を水田監督がおひとりで担当されて。普通、連ドラって……。

――話数で監督が変わりますよね。

阿部 そうなんです。水田監督は全話ご自身でやられてました。びっくりしましたよ、引退するのかなと思うくらいに(笑)。そういうパワフルさも昔から変わらないですよね。

水田監督 「anone」が終わった後、中山と一緒に旅行に行ったんですけど、「全部ひとりの監督が撮ると疲れるんだよ」「現場も息抜きが必要だからさ」と叱られましたよ(笑)。

阿部 それを言える仲っていいですけどね~。

――『アイ・アム まきもと』は『STILL LIFE』のリメイクです。どのようないきさつで映画化となったんですか?

水田監督 (制作会社の)セディックの中沢プロデューサーに、以前よりいくつかの題材でお声がけいただいていたんです。そのうちの1作が『STILL LIFE』でした。好きな映画でしたし、「もしリメイク権を獲れるならば」とスタートしました。それが4年以上前で、ウベルト・パゾリーニ監督がとても大事にされている作品だったので、交渉は難航していたんです。でも、セディックの実績の中には『おくりびと』があったので、「その会社であれば」と承諾いただけました。僕は滝田洋二郎さんでもないのに……。

一同 (笑)。

阿部 最初、山形で僕らが撮り始めているときに、町の噂では「『おくりびと 2』が始まった」と言われていたんですよね(笑)。

水田監督 リメイク権が獲れた後は、私の希望で脚本は倉持裕さんに書いていただくことになりました。シナリオハンティング、脚本が完成、阿部さんにお願いし、コロナで1年延期になり撮影した、という状況でした。

2022.10.01(土)
文=赤山恭子
写真=平松市聖