全編ワンカット作品、役者なら燃えるでしょうね

――CREA読者はカルチャー好きも多いのですが、おふたりが最近観た中で印象に残っているお勧め映画も最後に教えていただけますか?

阿部 この間、水田監督に会ったときに教えてもらった『ボイリング・ポイント/沸騰』がすごかったです!

水田監督 僕が観たばかりで、興奮して話した作品ですね。

阿部 全編ワンカットなんですが、本当にワンカットだったというか(笑)。発想もすごいし、ストーリーもちゃんとしていて、きちんとメッセージも入っていて、全然退屈しなくて面白かったです。ワンカットじゃなくてもいいぐらいのお話で、少し興奮しちゃいました。

――阿部さんも、『ボイリング・ポイント』のような作品に出演してみたいお気持ちはありますか? 

阿部 楽しいでしょうね! 役者は燃えるでしょう。舞台みたいなものですよね。ずっと本番なので、2時間ずっと燃えてるんでしょ! セリフをしゃべっているメインキャストより、レストランに来るお客さんがどういう感じでやっているのかな、と気になりますし(笑)。

――水田監督がそそられたポイントは、今阿部さんがお話しされたこと以外にもありますか?

水田監督 あの作品は、そもそもカメラマンが発想して監督に「やろう」と言っているんです。その人間関係もいいなと思いましたし、そのふたりの「やろう」という意思に対して、あれだけの名優が集まる環境が素晴らしいですよね。ただ、85分撮ったところでNG出したら台無しだから、もうぞっとしますよね。

阿部 本当ですよね(笑)。

――日本版リメイク、いかがですか?

水田監督 いや、全然やりたくない!!

阿部 全然やりたくないんですね(笑)。

水田監督 へとへとになるでしょう!

――監督のお勧めは、そのほかにもありますか?

水田監督 近年だと中国映画の『少年の君』、アメリカ映画の『ブルー・バイユー』。この2本は映画にしなければならない使命感があるというか、とにかくエネルギーがすごいんです。すごくいいですよ。

阿部 どういう内容の映画なんですか?

水田監督 『少年の君』は、ティーンエイジャーのラブストーリーなんですけど、受験やいじめ、貧困など、中国の今の大問題が織り込まれていました。『ブルー・バイユー』は、アメリカの里子の国籍がもらえないという話。ずっとアメリカで育てているのに、グリーンカードも出ない、それで離れ離れになるという。両方とも作る使命感があるんですよ。

 僕がメディアには使命があると意識した時期があって、そのときに「Mother」や「Woman」を作ったんですね。児童虐待や主婦の貧困みたいなことを、面白く作ることだけじゃなくて、人々に知らしめること、啓蒙することもメディアの使命じゃないか、と。なので『アイ・アム まきもと』の孤独死ということに対しても、エンタメにせずにやるべきではないかなという意識もありました。もちろん、たくさんの方に観ていただかなければ意味がないので、楽しんでもらえる要素も織り込むんですけどね。この2…いや、3作品は、CREAの読者に“ぜひモノ”です。

阿部サダヲ(あべ・さだお)

1970年生まれ。1992年より「大人計画」に参加し、同年舞台「冬の皮」で俳優デビュー。長編映画初主演の『舞妓Haaaan!!!』で第31回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。2019年のNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」では主人公・田畑政治を熱演。2022年11月23日(水)より主演舞台「ツダマンの世界」が控える。

水田伸生(みずた・のぶお)

1958年生まれ。日本大学芸術学部演劇学科を卒業後、日本テレビに入社。TVドラマ「恋のバカンス」、「サイコドクター」などの演出を手がけ、2006年に『花田少年史 幽霊と秘密のトンネル』で映画監督デビュー。その後、阿部サダヲ主演のコメディ『舞妓Haaaan!!!』が話題を呼び、『なくもんか』、『謝罪の王様』など多数制作。2014年「Woman」の演出として第64回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。

映画『アイ・アムまきもと』

小さな市役所の市民福祉局に勤める牧本壮(阿部サダヲ)が担当するのは「おみおくり係」。身寄りがなく独りで亡くなった人を無縁墓地に埋葬する仕事だ。人の話を聞かないコミュニケーション下手な彼だが、自費で葬儀を執り行い「遺族が引き取りに来るかもしれない」と納骨をせずデスク下に一時保管する日々。ある日、亡くなった蕪木孝一郎(宇崎竜童)の部屋から娘と思しき少女の写真を見つけ、その少女の居場所を探し始める。

監督:水田伸生 脚本:倉持裕 原作:Uberto Pasolini“STILL LIFE”
出演:阿部サダヲ、満島ひかり、宇崎竜童、松下洸平ほか
2022年9月30日(金) 全国公開
https://www.iammakimoto.jp

2022.10.01(土)
文=赤山恭子
写真=平松市聖