俳優が反射的に動けるようにお膳立てをするのが役割

――地元の一般の方たちをキャスティングしたんですよね?

水田監督 はい。コロナで1年延期になった分、準備に充てられたんです。僕がテキストを作って、1日7時間ずつ2日間のワークショップをやりました。そこで「この役はこの人に」と決めていきました。

阿部 皆さん、信じられないぐらい作っていないんですが、でも作りこまれたような表情が多くて。僕は何もしていないくらいの感じで、それはすごく助かりました。

――演技においては、何もしないことが一番難しいように感じます。

水田監督 「名優は余計なことをしない」と、よく言いますよね。普通に暮らしておられる方をよく観察してみてください、必要なことしかしないんですよ。日常生活で、少しオーバーだったり、過剰なことをしている人は嘘をついています。

阿部 ふふ、なるほど。

水田監督 何かを偽っていたり、人をだまそうとしている人なんですよ。なので、リアリティのある演技というのは、必然的に余計なことをしなくなるんだと思うんですよね。

阿部 でも役者としては勇気がいりますよね、何もしないって。

水田監督 そう、足りているのか、伝わっているの不安に思いますもんね。

――水田監督はリアリティのある演技を追求するために、どういう演出をされるんですか?

水田監督 演じるって、考えていることや感じていることが表に出ることではなくて、身体の動きと、身体が生む音、このふたつでしか表現できないんですよ。そのときにどう考えているかは実は二の次で、身体がどう動くかのほうがはるかに重要なんです。動かそうと思って動くんじゃなくて、要は反射で動くこと。そこにだけ俳優の意識が向くように、我々はお膳立てをするんだと思うんです。

 簡単に言えば、環境が整っていて、阿部さんが演じやすい、満島さんが演じやすいと思えればもう演出はできている。だから、演出家の仕事の80%以上は準備だと思っています。

――俳優がやりやすい環境を作ると言いますか。

水田監督 スタッフの意思を統一して、周到な準備をして、演じやすい環境を提示して演じてもらう。残りの20%は、現場のアクシデントに対応するのが2%ぐらい、あとの18%ぐらいがポストプロダクション(撮影完了後の編集などの作業)だと思っています。ちょっと真面目に答えすぎたかもしれません(笑)。

阿部 いえ、素晴らしいです。

2022.10.01(土)
文=赤山恭子
写真=平松市聖