「羞恥心をどこかに持っていないと、お客さんに伝わらない」阿部サダヲの演技論
24件の殺人容疑で逮捕された連続殺人鬼から、大学生の元に届いた手紙。それは、「最後の事件は自分が犯したものではない」という告白と、冤罪の証明依頼だった――。
櫛木理宇による小説を、『孤狼の血』や『凶悪』で知られる白石和彌監督が映画化した衝撃作『死刑にいたる病』(2022年5月6日[金]劇場公開)。次々に新たな事実が明かされ、観る者を翻弄し続ける本作で、物語の中心となる連続殺人鬼・榛村役を任されたのが阿部サダヲだ。
活力あふれる演技でコミカルなキャラクターを演じてきた阿部が、2017年公開の『彼女がその名を知らない鳥たち』に続く“白石組”で、新境地を開拓。脳裏にこびりつく冷血な演技を披露している。
大学生・雅也に扮した岡田健史との演技対決も大いに見ものな本作、観る側も肩に力が入ってしまうが、意外にも現場は笑いの連続? さらに阿部からは「芝居は恥ずかしい」という言葉も……。ギャップにあふれるインタビューをお楽しみいただきたい。
――『彼女がその名を知らない鳥たち』以来の白石和彌監督とのタッグ。阿部さんにとって、白石組の特長はどんなところだと感じますか?
僕はやっぱり、監督もそうですが美術の今村力さんをはじめ、スタッフさん達の現場に込めたアイデアの数々に触れられるのはすごく楽しくて、毎回驚かされます。
たとえば、ポスターに微かに写る表情のアップ。あれ、実際は台車に乗って撮っていますからね(笑)。荷物を運ぶ台車に僕がそこに乗って、後ろからスタッフさんが押して撮っています。
シリアスなシーンですが、僕も「なんだろう、この絵面(笑)」と思いながら芝居していますし、白石監督やスタッフの方々も笑いながら撮っています。
そういった、傍から見ると滑稽なことをやるのがすごく楽しいです。色々な仕掛けが施されていて、意外とアナログなことをやっていたりもする。映画作りの楽しさを感じられる工夫の詰まった現場なんです。逆に、そういった状況で集中しなきゃいけないのが大変でした。
――狂気を感じる目の演技が非常に印象的でしたが、舞台裏は笑いにあふれていたのですね。
はい。もともと、カメラ目線で芝居をするのが得意じゃないんです。なのでこのシーンは、自分自身が置かれた滑稽さもあり、不安で少し怯えています(笑)。
今回、白石監督が目にフォーカスを当てて撮ったのは、『彼女がその名を知らない鳥たち』の目の演技が印象的だったからだそうなんです。劇中で僕が演じる陣治が、発車ギリギリで電車に乗ってこようとした男の人を突き飛ばすシーンがあるのですが、撮影時に「人を殺してきたような目をしてください」という演出を受けて。その時の演技が監督の中に残っていた、というお話は聞きました。
2022.05.02(月)
文=SYO
撮影=平松市聖