大人計画主宰者、松尾スズキさんの教え
――エネルギッシュな芝居を求められる濃い役柄が多いと、ある種のイメージが付いて回るようなことはあるのでしょうか。
僕自身はあんまり感じていないです。白石監督とも「今回はイメージを変えよう」といった話は特になかったですね。「役を引きずる」とか「役が残る」もあまりなく、結構その場その場で切り替えるタイプです。特に今回の役は付いてこられても困りますので(笑)。
本作は栃木でのロケでしたが、撮影がない日もホテルにじっとこもることはなく、餃子屋さんに行ったりして、リフレッシュしていました。
――例えば舞台のように一人の役と長い時間過ごす場合でも、そのスタンスは変わらないものですか?
はい。都度都度リセットをかけています。特に舞台は、出番が終わった後に楽屋に行くじゃないですか。皆さん舞台上とは全く違うことをやっていますから(笑)。慣れれば慣れるほど、都度リセットしたほうが疲れないんです。役で悩んだことを持ち帰ってしまうと、疲れて結局長続きしないんです。
――阿部さんといえばハイテンションなキャラクターも自在に演じてこられましたが、となると現場で一気にテンションを上げられるのでしょうか。
そうですね。家ではできないので(笑)。僕はそんなに苦じゃないんです。むしろ撮影前から徐々に……といったアイドリングができないタイプかもしれません。「この瞬間」と限定させないと、演じるのが恥ずかしくなってしまうんですよね。
――「恥ずかしい」という感覚、キャリアを積まれてもおありなのですね! ちょっと意外です。
ありますね。もともと僕が入った大人計画の主宰者である松尾スズキさんの教えが「お芝居すること自体を恥ずかしいと思っていた方がいい」ですし、僕自身も「人前に立って変なことを言うの恥ずかしい」という感覚は常にあります。羞恥心をどこかに持っていないとダメじゃないかとも思います。
――となると、没入して演技されるというよりはちょっと引いた立ち位置というか……。
その感覚はすごくあります。今回の役もそうですが、引いていない人じゃないですか。怖いですよね。どこかでもう一人の自分が観ていないと良くないと思いますし、その感覚は「自分がお客さんにどう観えているか」という意識にもつながるので、大切にしています。一番届いてほしいし、伝えたい先はお客さんですから。
映画『死刑にいたる病』 2022年5月6日(金)全国公開
“連続殺人鬼からの依頼は1件の冤罪証明だった――”
理想とは程遠いランクの大学に通い、鬱屈した日々を送る雅也(岡田健史)の元にある日届いた1通の手紙。それは世間を震撼させた稀代の連続殺人事件の犯人・榛村(阿部サダヲ)からのものだった。24件の殺人容疑で逮捕され、そのうちの9件の事件で立件・起訴、死刑判決を受けた榛村は、犯行を行っていた当時、雅也の地元でパン屋を営んでおり、中学生だった雅也もよくそこに通っていた。「罪は認めるが、最後の事件は冤罪だ。犯人は他にいることを証明してほしい」。榛村の願いを聞き入れ、雅也は事件を独自に調べ始める。そこには想像を超える残酷な事件の真相があった――
出演:阿部サダヲ 岡田健史 岩田剛典 中山美穂
監督:白石和彌
脚本:高田亮
原作:櫛木理宇「死刑にいたる病」(ハヤカワ文庫刊)
配給:クロックワークス
©2022映画「死刑にいたる病」製作委員会
https://siy-movie.com/
2022.05.02(月)
文=SYO
撮影=平松市聖