映画『おおかみこどもの雨と雪』で大号泣
自分のダメなところを再認識しつつも、出産によって自分が大きく変化したことも感じているという。とくに大きく変化したのは、環境でも肉体でもなく、水野さん自身の性格だ。それまでは、たとえば感動的な映画やドラマを観ても、つい俳優目線で、脚本や芝居やカメラワークなど、細かいところをチェックする癖があった。
当然、物語には没入できない。それが、出産後に夫婦で細田守監督のアニメ映画『おおかみこどもの雨と雪』を観て、滂沱の涙を流している自分に気づいた。
「出産前にも、1回旦那と一緒に観ていたんですが、そのときは全然泣かなかったのに、子供が産まれてから観ると、お母さんのキャラクターに感情移入しちゃって、冒頭から涙が止まりませんでした。同じ映画でこんなにも感じ方が違うのかと自分でもビックリしました。
『はじめてのおつかい』もそうです。子育てを経験して、あらためて見てみたら号泣しちゃいました(笑)」
子供に身につけてほしいのは想像力
出産して実感した変化の中には、社会に対する意識も挙げられる。便利で効率的な文明社会に生まれたはいいが、子供たちの未来を想うと、問題は山積している。15年後、20年後、どうやって、今の子供たちが社会に根を張っていけるのか。
そのために、どんな力をつけていったらいいのか。水野さんは、自分の子供に、打たれ強くたくましい人間としての武器を身につけていってほしいと願う。そして、何よりも想像力を育んでほしいと。
「独身時代から妊娠前までは、ずっと自分中心で世の中を見ていたけれど、いざ子供が生まれてみると、子供関係のニュースに敏感になるし、子供を取り巻く世の中の仕組みにも関心が向かうようになりました。
お母さんの大変さもわかるから、公共交通機関で移動していて妊婦マークをつけている人がいたら席を譲ったり、ベビーカーを押している人が電車から降りるときにちょっと手を添えたり。すべてのお母さんを応援する気持ちになりますし、すべての子供が愛おしくなります。
子供たちの未来のために、どんな社会にしていったらいいか、どんな教育を受けさせたらいいかを考えるので、出産前よりもずっと、社会に関わっていこうという気持ちが強くなりました」
日々、考えなければならないことは山積みだが、同時に、どんどん図々しく、タフになっている自分もいるという。
「以前は、自分の悪いところが出てくるたびに『なんてダメな親……』といちいち落ち込んでいましたが、最近は、子供がこの出来損ないの親を反面教師として、成長してくれたらいいなと思うようになりました。そう頭を切り替えることができたのは、エッセイを書くようになったことも影響しているかもしれません。
最初の1〜2ヶ月の育児は、大変すぎて覚えてないんですよ。でも面白いことって、実は誰にでも起きているはずなんです。ウチは、旦那のリアクションも面白いですし、動画を撮ってくれていることも多いので、時間が経ってから思い返しやすく、文章を書くときにも助けられています」
2022.09.27(火)
文=菊地陽子
写真=佐藤 亘
ヘアメイク=面下伸一(FACCIA)
スタイリスト=山下友子