八月納涼歌舞伎で新作歌舞伎『新選組』の主人公、深草丘十郎を勤めることになった中村歌之助さん。従兄弟の中村勘九郎さんからの勧めで出会ったこの役をどのように体現してくれるのだろうか?
手塚治虫の描いた世界を歌舞伎で生かす
「深草丘十郎はまだ誰も演じたことがない役なので、まずは化粧、扮装から創っていきます。勘九郎の兄とも話し合いながらいろいろ決めていったのですが、漫画での表現を忠実にしつつも歌舞伎に見えるということの加減がとても大切だと思いました。試行錯誤を重ねて完成したものをスチール写真の撮影の際に、化粧をして頭(鬘)をかけたときに、やっと自分が丘十郎を演じることを実感できました。
それが完成するまでは手塚治虫先生のファンの方や歌舞伎のお客さまにご納得いただける“顔”なのかが、とても不安でした。撮った扮装の写真をご覧になった手塚プロダクションの方から“あの丘十郎と大作が画から抜け出たみたいです”とおっしゃっていただいたと伺って、とても嬉しかったです。
手塚先生が描かれた作品はアニメなど、映像化されたものが多いですが、『新選組』は画としてのみ存在している作品です。ですから役名のイントネーションや扮装の細かいところは具現化されたことがなかったので、歌舞伎として表現するのはすごく伝わりやすいように思いました」
ファミリーで創り上げる喜び
今回の新作は、脇を固める豪華キャストも注目の一つ。坂本龍馬を中村扇雀さん、芹沢鴨を坂東彌十郎さん、庄内半蔵を片岡亀蔵さん、さらに近藤勇を中村勘九郎さん、土方歳三を中村七之助さんが演じる。
長兄の中村橋之助さんが演じる仏無南之介も原作で大きな存在感のある役。脚本は歌舞伎俳優で、立師でもある山﨑咲十郎さんが手がけるなど、興味を引く話題も豊富だ。
「ありがたいことに今回は僕が小さい頃からお世話になっている方々が、作品の中の重要な人物を演じてくださいます。おこがましい言い方かもしれませんが、僕にとってファミリーのような方々とご一緒して作品を創らせていただくことができるのは、とても嬉しいです。
先日、片岡亀蔵のおじさまに少しお目にかかったのですが、“一緒に面白いものを創ろうね”ってとても優しくおっしゃってくださったんです。楽屋の行き来ができない今、先輩が手を差し伸べてくださることには心から感謝しています。
また、先日、(山﨑)咲十郎さんから参考用に創ったという立廻りの資料映像を頂戴しました。具体的には説明できませんが、歌舞伎の殺陣と手塚治虫先生が描くコミカルな部分がうまくハマっていて、僕自身はとても面白く拝見しました。お客さまがご覧になってどう思われるのかはわかりませんが、手塚治虫先生のキャラクターの魅力を歌舞伎の殺陣にも活かせたらと思います」
2022.08.06(土)
文=山下シオン
撮影=深野未季