17歳で歌舞伎座主演を果たした市川染五郞さんから受けた刺激

 新作歌舞伎の役作りでは、ゼロから創り上げるだけでなく、歌舞伎俳優がそれまでに経験した古典の役を生かして演じることも多い。歌之助さんは丘十郎を演じる上で、これまでに体得した引き出しから、どんなイマジネーションを得るのだろうか。

 「僕はまだ20歳という経験の浅いなかで、新作に携わるのはとても怖いことでもあります。そうしたなかで、6月に初主演を経験した市川染五郎くんと共演させていただくことができて、僕自身もとても良いタイミングでいい学びを得ることができました。

 その六月歌舞伎『信康』で、僕が演じていた又九郎と染五郎くんが演じた信康が一対一で会話をする場面は少なかったのですが、お互いが心の中で会話をするような部分がありました。そのとき、今までに感じたことのない“感情の揺れ”というものをすごく感じることができました。同世代とご一緒できたのは、とてもありがたかったです。

 ですから、『新選組』でも頭で考えるのではなく、その場で生まれる役者同士の表現というものをすごく大切にしたいと思います。千穐楽を迎えたとき、染五郎くんが歌舞伎座の主演を演じきった姿を間近で見ることができて、それも僕にとってとてもいい刺激になりました。僕が演じる丘十郎をご覧いただいて、“歌之助も成長したな”と思っていただけるように頑張りたいと思います」

歌舞伎俳優特有の「漫画」の楽しみ方

 新作歌舞伎『新選組』の原作は漫画ですが、9月7日発売のCREAも漫画特集。歌之助さんがこれまでに読んだ漫画について伺った。

 「僕は普段はあまり漫画を読まないのですが、初めて読んだ漫画は『鉄腕アトム』でした。母方の祖父の家にあったんですが、まだ幼い時で字も読めなかった頃のことです。祖父がお風呂場で『鉄腕アトム』の曲を口ずさんでいたことが、とても印象に残っています。

 最近では『鬼滅の刃』が面白かったですね。歌舞伎役者特有のことかもしれませんが、漫画や小説、映画やドラマを観ても、頭のどこかで新作歌舞伎にできないかなと考えてしまうんです。『鬼滅の刃』もそうですが、手塚治虫先生の『どろろ』だったり、映画の『ロード・オブ・ザ・リング』だったり、難しいかもしれないけれど、歌舞伎にしたら面白いのではないかと思います。

 いつか“手塚歌舞伎”と題して、手塚先生の作品を歌舞伎化して昼夜3本ずつ上演するのも面白いと思います(笑)。漫画の中に歌舞伎があって、歌舞伎の中に漫画がある。それもまた歌舞伎を楽しむ一つの方法なのではないでしょうか?」

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八月納涼歌舞伎「新選組」

“漫画の神様”手塚治虫の作品が初めて歌舞伎に。幕末の京都を舞台に、深草丘十郎(歌之助)と謎を秘めた少年剣士・鎌切大作(福之助)の友情、新選組隊士たちや坂本龍馬との出会いを通じて成長する丘十郎の姿が生き生きと描き出される。8月5日(金)~30日(火)までの公演。
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/773

2022.08.06(土)
文=山下シオン
撮影=深野未季