作品に実直に向き合い表現を考え抜く

 「ひとり温泉」かあと「CREA」本誌を手に取り、興味を惹かれた様子でページをめくった渡辺大知さん。「ひとりで温泉に行ったことはない……あ、あるかも! 最近、ちょっと温泉を好きになってきたんですよね」と、独特の心地よい声でぽつりぽつり温泉の思い出を話し出す。

 気付けば作品に引っ張りだこ、注目を集める存在となっていた。ロックバンド「黒猫チェルシー」のボーカルとして芸能活動をスタートして以降、2009年には映画『色即ぜねれいしょん』で俳優デビューも果たし、いきなり第33回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。俳優業での活躍は続き、現在放送中の朝の連続テレビ小説『ちむどんどん』では癖のある喜納金吾を好演、お茶の間にロスを巻き起こしたばかりの張本人だ。

 アーティストとしても役者としても、こと表現することにおいては同じ意味合いだと渡辺さんはインタビューで語る。彼にしかできない、彼ならではの雰囲気をまとえるのは、作品に実直に向き合い表現を考え抜くからこそ。俳優という仕事や思いについて、主演ドラマ『ロマンス暴風域』の経験とともに聞いた。

佐藤民生は無気力なようでいて、すごくこだわりもある人物

――『ロマンス暴風域』では主人公・佐藤民生を演じます。「非正規雇用、非モテの自分にコンプレックスを抱えている」人物ですが、ご自身が演じるイメージはすぐ湧いたんでしょうか?

 今回、お声がけいただいてまず原作を読みました。佐藤民生はどこにでもいるような主人公なんですけれど、思いは強く、無気力なようでいて、すごくこだわりもある人物なんです。それで自分がやるイメージがついたというよりも、自分にお声がけいただいたことが噛み砕けたというか。この役において自分だからできる表現というのがあるんじゃないかと思えたので、ぜひやりたいと受けさせてもらいました。

――撮影が始まったばかりのタイミングですが、表現ができている、掴めている感じは既にありますか?

 そうですね、今1話を撮り終わったばかりなんです。1話では、工藤(遥)さん演じるせりかちゃんとの出会いが描かれていますが、それがこのドラマの求心力になっていきます。その求心力がちゃんと強いものになったんじゃないか、という実感は持っています。(タイトルの)『暴風域』じゃないけど、何かが巻き起こっていきそうな予感は作れている、そんな自信はあります。

――1話は衝撃のラストで幕を閉じます。2話以降もずっとそうした展開が続いていきそうですが、渡辺さんは様々な女優さんととにかく対峙する形で?

 そうなんですよね(苦笑)。今回は男性よりも女性との絡みが本当に多くて。それこそ佐藤は肉体的にも精神的にも、自分を包んでくれるような、お互いを高め合えるような女性を……勝手に決めた運命の女性を無意識にずっと探し続けているんです。撮影していると、本当に1日ごとに新しいキャストの方がいらっしゃる感じで!

――工藤 遥さん、小野花梨さん、内田理央さん。入れ替わり立ち替わり、という感じですよね。

 そうです、そうです。本当に皆さん魅力的な方々で、刺激をもらっていますね。同じ台本でもいろいろなアプローチの仕方があるなと感じています。表現に対して敏感な人たちが集まっているので、キャスティングが完璧だと思っています。

2022.07.05(火)
文=赤山恭子
撮影=榎本麻美
ヘアメイク=佐鳥麻子
スタイリスト=Shinya Tokita