いろいろな偶然が重なった自分の「運命」
――作品のテーマに「運命」がありますが、ご自身が今役者としてここにいることが運命だと感じたりもしますか? もともとミュージシャンとしてデビューされていらっしゃいますが。
運命、ですか。正直、今の自分の仕事のやり方をずっと目指して生きてきたわけではないんです。いろいろな人との出会いや縁で今の自分があると思っていて、バンドを組んだこともそうですし、映画に初めて呼んでもらったときもそうですし。
自分の「こうしたい」「ああしたい」とか、「これができる」「これができない」だけじゃなく、本当に出会いひとつで、どんどん自分の居場所も変化していくんだなと感じています。
説明しづらいのですが、例えば「役者をしない」とか、自分で“制御”するのは自分には合っていないなと思っているんですね。制御せず自分の居場所として、ふさわしい場所を求めながら自分のしたい表現を追い求めているうちに、今の形があると思っていて。いろいろな偶然が呼んでくれた今の自分なので、確かに、ある種の運命だなとは思いますね。
――運命的に巡り合った今の場所や仕事で、大事にしていることは何でしょうか?
自分が好きな表現、好きな空気、形にしたい気持ちみたいなものがあるので、それをひとつひとつの仕事で絶対に妥協しないこと。ひとつひとつの精度をどう上げていくかということの連続で、今を生きている感じです。
――表現に対して常に真摯に向き合っているんですね。
表現者だからそれはそうなんですけど。僕の場合は好きな空気があって、自分でその空気やにおいとかを伝えられる人になりたい、というのがあるんです。その上で、今回みたいにいただいた役柄やストーリー、その作品にどう溶け込むか、どう寄り添っていくかだと思っています。
求められて応える仕事ではありますが、自分の場合は表出したい表現というのがあって活動を始めているので、そういう考え方になります。「いい表現・面白い表現って何だろう?」というのを突き詰めた上に仕事があるというか。それをやるのが表現者の仕事だと考えています。
――役者業でも音楽業でも、伝えたいもの、確固たる軸がご自身の中にあるということですよね。
はい。自分の中ではミュージシャンとしてバンドの中にいたときも、今も、醸したい空気とか、自分の身体の中にある伝えたいにおいみたいなものは同じ表現の仕方なんです。そういう意味では音楽と映画って似ていると思っているんですよね。
かたい言葉で言うと「時間芸術」というもので、写真や絵画とは違う“変化”というもので見せることができる表現に興味を持って始めているところがあるんです。例えば、聴いただけなのになぜか懐かしい感じがする、みたいなことともそうですよね。もっともっと分析していきたいなと思っています。
2022.07.05(火)
文=赤山恭子
撮影=榎本麻美
ヘアメイク=佐鳥麻子
スタイリスト=Shinya Tokita