芸歴約20年。広く注目された『スウィングガールズ』(04)以後、数えきれない作品に出演し、シリアスからコメディまで、主演で作品を背負うことも多いが、バイプレイヤーとして作品をガッツリ支えることもいとわない。“まさに女優!”という冠が相応しい貫地谷しほりが口にした、先日巷で話題になった「制服(高校生役)封印宣言」こそ、この『5つの歌詩(うた)』の舞台挨拶での発言だ。
その『5つの歌詩(うた)』とは、ドリカムことDREAMS COME TRUEの“心の風景”を映し出した楽曲を選出し、そこからオリジナルストーリーを紡ぎ出した5作から成るドラマ集。貫地谷はその中の一篇、スターチャンネルEXで7月7日(木)より配信される#1「空を読む」で、ヒロインの歩実を演じている。先の宣言は、本作で22歳を演じたことを受けての発言だが、愛くるしい顔立ちに破格の演技力を具えた貫地谷には、もはや年齢なんて乗り越える壁にもならない。
本作では22歳から30代半ばを何の不自然さも感じさせず行き来し、その人のその時代にスッと入りこんで、観る者にその年代ならではの“悩みや事情や恋の切なさ”をまんまと体感させる。「母が大好きで、私もずっと聴いてきた」ドリカムの歌詩の世界観を、ドラマにした本作に参加できることを「すごく嬉しかった」と語る貫地谷に、手ごたえを聞いた。
この冒頭だったから先を読みたくなった
――冒頭、夫の泰輔(三浦貴大)を冷めた目で見つめながら、“結婚13年。人の心はこんなにも簡単に離れるものか”云々と独白します。あの歩実のナレーションは、“あるある”満載ですね。
すごく好きなシーンです。最初にホン(脚本)を読んだとき、この冒頭で先を読みたくなったというか、なんか分かるな、と思って。歩実は、自分のフィルターをかけて見ていて、色んなことを勝手に諦めてしまっているし、自分では俯瞰して見ているつもりでいる愚かさもある。でも楢木野(礼)監督が、その淡々とした感じ――何か起こりそうな、何か不穏な感じを、すごく上手に撮ってくださって、それがとてもいいなぁ、と。本当にこの作品をやれてよかったな、と思いました。
――貫地谷さんご自身は、実感として“あるある”と共感しませんでしたか。
私としては……言ってもまだ新婚ですから(笑)。うちの夫は、本当に着るものに頓着しない人で、毎日、同じようなものを着ているんです。洗濯物を上から取っていくだけなので、たまに紛れたものを着ていて、不思議な格好をしている時がある(笑)。そういうことに対して、20代の頃はすごく気になったのですが、夫に対しては全然気にならない。変だけど、これがこの人か、みたいな感覚というか。
朝セットしたはずの髪が、マリモみたいになって帰って来ることがあっても(笑)、昔の私なら気になったのに、今は気にならない。何を着ていても、何をしていても、この人だったら何でもいいかな、と思うようになりました。それでも、歩実のようになる可能性はないとは言えない。誰しもそういう可能性がある、とても身近な物語だと思います。
――そんな倦怠期というか、静かにマンネリを迎えている歩実と泰輔の夫婦の間に、元カレでカメラマンの光太(渡辺大知)が出現し、波風が立ちます。同時にそれによって、妻に無関心なのではなく、不器用系ツンデレな泰輔の魅力も逆に浮き出てきて……。そこからの展開は、もうキュンキュンでした!
それはもう、キュンキュンきますよね(笑)。確かに若い頃は、何を考えているか分からないような、クリエイティブな仕事をしている光太みたいなエモイ感じの人がカッコいいな、と思いますよね。もっとも演じた渡辺(大知)さんが雰囲気のある人だから、そういう光太になったのかもしれませんが。ただ、私自身はやっぱり泰輔派かな。安心できるし、本当は分からないけれど“こういうこと考えているんでしょ!?”と言えるような間柄というのがいいですね。
――泰輔の、朴訥とした不器用な感じがたまらない(笑)?
(鍛えているのに)缶を開けられないとか、キュ~ン、可愛い~となりました(笑)。また、何より三浦(貴大)さんが可愛くて。例えばあるシーンで、テストの時は泣かなかったのですが、本番で私がワ~ッと(セリフを)言いながら泣いちゃったんです。そうしたら、“ハンカチ出さなきゃ”と思ったらしくて、(ポケットをごそごそ探る仕草の後)、“あ、ない”となって。三浦さんが、“思ったけれど何もできなかった”とおっしゃっていて、泰輔さんも思ってはいるけれど、どうすればいいのか分からなくて出来ない人なんだよな、と。三浦さんの可愛さが、そのまま泰輔という役に出ていたので、本当にステキでした。
――渡辺(大知)さんはどんな感じの方でしたか?
また全く違った魅力がある方だと思いました。渡辺さんは、休憩時間もずっと台本を読まれていて、とてもストイックな方でした。
――そんな時、三浦さんは?
ボ~ッとしていました(笑)。冗談です。一緒に楽しく、お話をさせていただいたりしていました。
2022.07.07(木)
文=折田千鶴子
写真=鈴木七絵
ヘアメイク=北 一騎
スタイリスト=mick(Koa Hole inc.)