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 5年にわたり宝塚歌劇団の花組トップスターとして数々の舞台を成功に導いた明日海りおさん。2019年に退団してから、テレビドラマやミュージカルなどの舞台で活躍の場を広げている。宝塚歌劇団の男役から女優へと転身したことで意識的な変化はあったのだろうか?

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女優に転身して生まれたもの

 「宝塚歌劇団では、男役というものを突き詰めて深めていったり、隙をなくしたりするという作業を重ねて創り上げていきました。退団後での出演作では、まずは演じる役の性別が変わり、これまでとはアプローチも変わります。しかも舞台とひと言でいっても、いろんな種類の作品がありますし、特に映像のお仕事は初めての挑戦だったので緊張ばかりして不安のほうが大きかったです。ちょうどコロナ禍になった時期でもあったので、人と人との出会いやつながりをもっと大切にしたいという思いが生まれました。

 宝塚歌劇団は、同じ座組で、同じ人達と生活を共にしているので、自ずと絆が深まっていくのですが、今はどの現場も一期一会でご一緒させていただきます。これが最後かもしれないですし、またご縁があるかもしれません。だからこそ、その貴重な機会で、出来る限りいろんなことを学ぼうとか、受け取ろうとか、私自身の中にとても“アグレッシブなもの”が生まれてきたことをすごく感じています」

ミュージカル『ガイズ&ドールズ』でヒロインに初挑戦

 退団後に立った舞台では『ポーの一族』で少年を、『マドモアゼル・モーツァルト』では男装の作曲家を演じた明日海さんだが、『ガイズ&ドールズ』では清純で超堅物な救世軍の軍曹、サラ・ブラウンというヒロイン役に挑む。

 ミュージカル『ガイズ&ドールズ』は1950年にブロードウェイで初演され、トニー賞などを受賞した名作。日本では1984年に宝塚歌劇団で初演され、明日海さんは宝塚音楽学校の予科1年だった2002年に月組のトップスターだった紫吹淳さんが率いる再演を観劇している。その時の感動を言葉にしてくれた。

「宝塚バージョンなので、ソフト帽にスーツを着たスカイやギャンブラーたちは本当に格好よかったです。メインキャストの中でいえば、スカイが素敵なので演じてみたいと思いました。オーバーチュア(序曲)がついているので、始まりから“ミュージカルを観に来た!”という高揚感に包まれます。どの曲もメロディーがキャッチーなので覚えやすくて、すごくハッピーな気持ちにしてくれるんです。

 私が歌う曲ではありませんが「Luck Be a Lady」が一番好きですね。とても豪華。揺らすようなフリーダムなソロから始まって、リズムインしてからは軽快でありながらもクドさもある。ダダダッという打楽器などのリズムが追いかけてくるのに、管楽器の絶妙な相づちが入ってきて、それがいかにもギャンブラーの生き様みたいなものを表しているように私は感じるんです。ミュージカル好きな人には堪らない作品だと思います」

2022.06.05(日)
文=山下シオン
撮影=深野未季
ヘアメイク=山下景子(コール)
スタイリスト=大沼こずえ(eleven.)
衣装協力=ヴァンドームブティック伊勢丹新宿店