「夢中になれるエンターテイメント」をずっと作り続けていきたい

 「神秘的」。檀れいさんの印象を表現するとしたら、そんな言葉を使いたくなる。

 透明感あふれるたたずまいで、その場の人たちを自然と魅きつけてしまう檀さん。だが、いざ俳優としてカメラの前に立つと、そのオーラごと消し去り、どんな仮面だってつけてみせるのだから俳優業は天職なのだろう。

 最新出演映画『太陽とボレロ』では、解散寸前のがけっぷちアマチュア交響楽団の主宰者であり、経営者としての顔も持つ花村理子をチャーミングに、パワフルに熱演した。

 本作は意外なことに檀さんの映画初主演で、かつ彼女が敬愛する水谷豊監督からのオファーで出演に至ったという記念碑的な作品だ。

 インタビューでは、情熱を傾けた作品への思いと同時に、いくつになっても、キャリアを重ねてもへたることのない挑戦心を持ち続ける気持ちの源泉を聞いた。

「ふと檀さんの顔が浮かんだ」という水谷豊監督の言葉

――『太陽とボレロ』にて映画初主演となりました、おめでとうございます。水谷豊監督のもと励んだ本作、檀さんはどのような気持ちでオファーを受けたんですか?

 このお話をいただいた時点で、映画の主演をするから嬉しいというよりも、水谷監督の作品に出演できることのほうが嬉しかったんです。私自身、監督の過去2作を拝見していましたので、「なんて素敵な映画を撮られるんだろう」とずっと思っていました。別のお仕事で水谷監督とご一緒させていただいたときには、「あそこのあのシーンはどういう風に撮ったんですか?」と伺ったりもしていて。まさか自分が水谷組に参加できるとは思ってもいなかったので、本当に光栄でした。

――念願かなっての作品入りだったんですね。実際、撮影はいかがでしたか?

 毎日、現場に行くのが本当に嬉しくて仕方なかったです。「今日はどういう風なシーンになるかな?」とワクワク感を抱きながら、いつも入っていました。というのも、水谷監督は私が脚本を読んで想像していたものを飛び越える演出をされるので。驚かされたり、刺激を受けたり、ワクワクしたりの連続でした。私だけではなく、ほかの共演者の皆さんも自分自身が与えられたキャラクターや役割を、きっと存分に楽しんで演じていたんじゃないかなと思うんです。

――演じた花村理子は主人公ということもあり、本作の色を作る非常に重要なキャラクターです。水谷監督はなぜ檀さんに託したのか、その理由をお話したりもされたんですか?

 こうして今、宣伝活動をしている中で、ふたりで取材を受けさせていただいたときに少し伺いました。通常、監督は脚本を書く際に当て書きをせず、架空の人物としてキャラクターを作っているそうなんです。けれど、「とあるシーンだけ、ふと檀さんの顔が浮かんだんです。オファーしたいけど断られたら虚しいから、プロデューサーにも誰にも言わないで、自分の心の中にとどめておいたんですよ」とお話しされていました。それからどういう経緯で私のところにお話が来たのかはわからないんですが……それを聞いて「ええ、そうだったんだ!」と思いましたね。

――どのシーンで檀さんの顔が浮かんだんでしょう。まさか物語前半の、花村さんがホテルでドタバタ……のところでしょうか!?

 いえ(笑)。けど、そのシーンは私と水谷監督の中では「白鳥の湖事件」と呼んでいる思い出深いシーンです。ご覧いただいたら、その意味がわかると思いますが(笑)。実は、その「白鳥の湖事件」直後のシーンで私の顔が浮かんだそうです。

――印象的な河原でのシーンですね。

 はい。朝を迎えて、河原のベンチから起き上がり、お散歩をしている犬と目が合い気持ちがちょっと和む……みたいな場面です。あのシーンを書いているときに、私の顔が出てきたみたいで、「あっ、そこだったんだ」と思いました。

2022.06.03(金)
文=赤山恭子
撮影=佐藤亘
スタイリスト=髙橋正史(OTL)
ヘアメイク=黒田啓蔵