久しぶりの“しんどさ”の中で感じた高揚感
誰もが失敗しては、傷つき、再生への道をたどる。人生はそれの繰り返し、浮き沈みの連続だ。
伊藤健太郎さんが主演映画『冬薔薇(ふゆそうび)』で演じた渡口淳は、そんな人生のデコボコ道を不器用に歩く人物。
淳はまともな職に就かず、地元の不良グループと付き合いのある25歳の専門学生。その場しのぎでふらふらしている様子には、思わず眉をひそめそうになるが、ぶつかる壁にギリギリの精神でどうにかやっていく姿、演じた伊藤さんの演技からは目が離せない。
淳のふてぶてしさ、鬱積した思いや内面の変化を、カメラの前に惜しげもなくさらけ出し表現してみせた伊藤さん。俳優としての実力がいかんなく発揮された作品になった。
そして、『冬薔薇』は伊藤さんにとって「第二章の始まり」とする転換期の1作にもなったという。
1年という休業期間を経て作品に入った伊藤さんの撮影前、撮影中、公開を間近に控えた今、それぞれのフェーズで感じたこととは。包み隠さず、思いをすべて語ってくれたインタビューを前後篇に分けて掲載する。(【後編を読む】伊藤健太郎が語る“救い”と“孤独”「僕に差し伸べられた手は温かい」)
“伊藤健太郎”が反映された台本に「苦しくなる部分もあった」
――久しぶりの映画出演になりました。『冬薔薇』は阪本順治監督が伊藤さんを想定して脚本を書かれたそうですね。
はい。最初に監督と1対1で話す機会がありました。初対面で完全にふたりきりで、「何を話すんだろう!?」とすごくドキドキしていました。聞かれたことには全部素直に正直に答えようと、ある程度の覚悟をして監督のいる部屋に入ったのを覚えています。
いざお話しさせてもらうと、ものの5分ぐらいですごく安心できて。「ああ、阪本さんの船にボンと飛び乗ってもいいんだな」と思えました。2時間くらいお話させてもらって、監督のこともいろいろ話していただいて、すごく貴重な時間でした。
――当て書きされた淳は、決していいやつとは言えないけれど、ものすごく人間くさい男ですよね。最初に台本を読んだときは、どう感じましたか?
淳の生きている環境や性格は、自分と違うところも多くあるけれど、淳の環境で感じることや思うことの部分では、自分が監督とお話しさせてもらったことが反映されてもいたんです。だからか、どうしても他人事のようには思えない感覚がありました。
読みながらすごく苦しくなる部分もありましたし、すごく深い部分で理解できるところもあって…。だから、自分がすごく出てきてしまいそうで、演じるのがすごく難しかったです。
2022.05.28(土)
文=赤山恭子
撮影=山元茂樹