「笑わすのではなく、笑われる方向を選んでいきたい」
デビューから8年。またひとつ、繊細な物語の住人として、リアリティのある存在感を示した俳優の成田 凌さん。最新作はHuluオリジナル「あなたに聴かせたい歌があるんだ」である。燃え殻さんが書き下ろしたオリジナルストーリーを、萩原健太郎監督が叙情あふれるドラマに仕上げた。
17歳の夏、生徒たちは教室で、27歳の女性教師をめぐり、ある苦い思い出を共有する。そのとき教師はキリンジの「エイリアンズ」を聴かせた。無敵に思えたあの夏から10年。かつて夢を抱いていた27歳の若者たちを描いた切ない群像劇だ。
成田さんは、役者になる夢を捨てきれず、会社を辞めてしまう荻野智史を演じた。本作について、俳優業について語ってもらった。
「素敵な作品に参加させていただけたな」
――最初に脚本を読まれてどう思われましたか?
まず感じたのは「セリフが少ない」ということですね。その反面、できあがったものを見たら、人物の背中だけでも、その人がどういう人間でどんな状態にあるのかが伝わってきました。萩原健太郎監督が撮る段階から、すべてを想定して作っていらしたんです。カメラマンの表現力や美しい照明、俳優の佇まいなど、皆の力によって世界が成立していましたね。面白かったです。
素敵な作品に参加させていただけたなと思えました。
――セリフが少ないということを忘れてしまうくらい、表情や風景など映像が雄弁に心情を表していました。監督からはどんな指示があったのですか?
脚本があがる前から、演じる役がどういう人間なのかを書いた文章を監督からいただいていました。撮影時も細かな指示というよりも、人物の気持ちについて話してくださいましたね。
いろいろプランを持って現場にいらしていたはずなのに、監督はこちらの提案にもすごく柔軟に対応してくださいました。
――たとえばどんな提案をなさったのですか?
第1話の教室で、不良に目をつけられたときに荻野は「俺も好きだな、年上」と返すのですが、脚本には「僕も好きだな」と書いてあったんです。
ただ、荻野が少し背伸びをして言っている感じを出せたらと、「一人称を『俺』に変えてもいいですか」と監督に相談したら、採用してくださいました。
――教室の場面の、現場の空気感はどんな感じでしたか?
僕の席の後ろに、仲の良い藤原季節が座っていたので、ずっと喋っていました(笑)。20代後半になると同世代の俳優が一緒になる現場も減ってくるので、やっぱり集まれると楽しいですね。
教室で「エイリアンズ」を聴かされたという場面は、このドラマの核になっているので、いろんな角度から、繰り返し繰り返し撮っていました。カメラマンの光岡兵庫さんが、ガンガンガンガン撮っていった感じです(笑)。
2022.05.20(金)
文=黒瀬朋子
撮影=深野未季