監督に用意された舞台で泳がされた、という感じ

――橋の上のシーンについて。歩実がダダ~ッと町を走り、必死で(ガードレールを)またいで駆け寄る。そこにコミカルなテイストも混じり込み、それゆえ可愛くて可笑しくて愛しくて、感動しながら笑い泣きしました。最高な、一連のあの場面は、監督の演出によるものですか?

 特に監督から、ダダダ~ッと走れと言われた訳でもないのですが、走ってましたね(笑)。それよりも、あんなに(対向車線を挟んだ歩道が)距離が離れた橋というロケ地を選んだということは、監督に用意された舞台で泳がされた、という感じだと思います。この橋なら、必然的にそうなるだろう、と。追いかけ、初めて堰を切ったように自分の思いをぶつけるシーンなので、そうそう綺麗にはいられないだろう、と……考えてはいませんでしたが、そうなっていましたね。

――しかも2度もガードレールをまたいでいて。

 監督も、“またいでくれるんですね”と言っていました(笑)。それを聞いて、またがずにどうやって近づくの?と思いましたが(笑)。実は監督は、時間を飛ばし、次の瞬間はもう目の前に立っている、というカットを考えていたらしいんです。でも、私はそれを乗り越えたくてやったわけですが、そこがすべて使われていて良かったです。

――シリアスもコミカルも自在な貫地谷さんだからこそ、生まれ得た最高のシーンだったと思います。ところで、既に演じたことのない役の方が少ないだろう、と思われる貫地谷さんが、歩実役を“こういう女性像がやってみたかった”と言われたことに、逆に驚きました。

 20代の女性像だと、もう少し嫌な部分が出ていたりすることが多い気がします。でも、30代に入ってからは歩実のような嫌な女でもなく、いい奴でもないという、ごく普通の感じが出来るような、そんな役が来るようになったんです。だから、とても面白かったです。一見、地味な感じになってしまうところを、監督が本当に上手く撮ってくれて。“ここでスローを掛けるのか”とか、“ここで、そのスピード感にするのか”など、ちょっとした違和感を出すセンスが、すごくステキだと思いました。

2022.07.07(木)
文=折田千鶴子
写真=鈴木七絵
ヘアメイク=北 一騎
スタイリスト=mick(Koa Hole inc.)