化粧品は市場に溢れている。じつは家にも溢れている。だからもうこれ以上はいらないと、毎年のように毎月のように思うのに、それでもなお欲しくなる化粧品がある――美容ジャーナリストとして第一線を走り続ける齋藤薫さんにそう言わしめるのは、一体どんなコスメ?
この価格だからこそ味わえる感触の秀逸
そう今は、感触が悪い化粧品などを探しても見つからないほど、化粧品テクスチャーの水準は極めて高い。というより、良くて当たり前という時代、肌もさすがに“感動テクスチャー”にも感動が薄れてきていた。
だから正直、感触の良さで化粧品を選ぶなどはもう時代遅れであるとすら思っていた。
そもそもが、感触を試すため、手の甲に塗って「ふーんなるほど」なんて、わかったようなふりをするものの、他との違いが今ひとつ実感できていないかったりするケースが多いのだ。いやそのぐらい良さが拮抗していて、手の甲くらいではわからなくなっている。
それでも尚、感動をもたらす突き抜けた感触って、やっぱりあるものなのだ。以下は、それでも驚いた感触ランキング、独断のトップ3。どれも良いお値段ながら、買って後悔はしないはず。いや言い換えるなら、この価格だからこそ味わえる感触の秀逸、改めて知ってほしい。
バームでここまで個性的な心地よさを作れるなんて、さすが過ぎるシャネル
シャネル「サブリマージュ ル ボーム」
素晴らしい感触に慣れきってしまっている肌でも、さらに驚く感触は、まだまだあった。まずはシャネルのバームクリームのお話から。
数年前からにわかに主流の1つとなってきたバーム形状。「軟膏」とも訳せるように、薬剤を肌表面に留めて、見えない包帯のような役割を持っている。オイルが固形になったものと考えてもいいが、肌の上で多少溶けつつも、しっかりとした膜感で肌を包むのも1つの特徴。
とは言え、バームはどれも形状がよく似ていて、良し悪しを判断するのは極めて難しい。非常に硬めで指に取りにくいもの、粘度低めで柔らかく取りやすいもの、といった違いはあるが、仕上がりは皆よく似ている。
ところがこのシャネルのバーム(ボーム) は、まさにバームのイメージを根底から塗り替えるもので、 正直息を飲んだほど。クリームより濃厚なコク、なのにハッとするほど軽やか に肌に伸び、肌をふわりと包み込む。今まで触ったことのない感触に本当に驚かされる。
ただ塗ったそばから肌が変わる速攻肌改善の効果が際立っているのは、やはりバーム特有の包帯的な特徴なのだろう。潤いという概念も超えてしまうほど、肌がしっとりと柔らかくなる。なるほどこれはクリームでは決して出せないタッチと仕上がり。それにしても、違いが分かりにくいバームでよくもここまで個性的な心地よさを生み出したものと感心させられた。
スキンケアの感触作りにも、ある種の芸術性のようなものを常に感じさせるシャネルだからこそできたバーム。シャネルが作るとバームがバームでなくなる。改めて別物になることを思い知らされた。
2022.02.03(木)
文=齋藤 薫