壮絶展開で描く安子とるいの母娘関係
愛情深く娘のるい(のちの深津絵里)を育てた安子。何よりもるいが一番大事だったにも関わらず、運命の歯車は残酷です。安子が米軍将校のロバート(村雨辰剛)に抱きしめられる光景を目撃してしまったるいは、かつて安子が交通事故でるいの額に負わせた深い傷跡を見せながら「I hate you(大嫌い)」と、安子を拒絶。放心状態となった安子はロバートに「私をアメリカに連れてって」と告げるという衝撃展開でした。
るい役が深津絵里という時点で、上白石萌音と親子として共演するシーンはないと想像していたので、安子が何かしらの形でフェードアウトするとは予想していたのですが、思った以上につらい展開でした。仲違いしたまま、親子は離れ離れになったのです。
いやいや安子、なんとしてもるいのそばを離れるなよ〜! とも思うのですが、安子編のラストで急にヒロインに共感できなくなる展開も、次のヒロインに視聴者の感情をスライドさせる絶大な効果があったなと思います。あまりの展開に鬼脚本と言われたりしていますが、3人のヒロインでリレーする本作において、この見せ方は藤本有紀脚本さすが!としか言いようがありません。
現代、るい編が放送されていますが、るいはまだ安子のことを許していませんし、当時の記憶がつらい思い出として度々フラッシュバックしてしまいます。安子とるい、この二人の関係がこの先の未来で雪解けしていくといいのですが……。冒頭に書いたとおり、すべての家族が仲がよく愛情にあふれた関係ではありません。そのあたりを理解した上で脚本が書かれていると思うと、今後の展開も恐ろしい! これからるいと3人目のヒロインでありるいの娘のひなた(川栄李奈)がどういう母娘関係を築くのかにも注目です。
女性の社会役割の変化という視点に注目
100年の物語というと壮大に聞こえますが、大河ドラマ「晴天を衝け」の渋沢栄一の生涯は91年。朝ドラ「カーネーション」のヒロイン・小原糸子のモデルになったコシノ三姉妹の母親である小篠綾子の生涯は92年。一代記でも、100年に近い物語というのは作れます。では、なぜ3世代ヒロインをつくったのか。
そこで思い出されるのが、2000年の夏、3夜連続のスペシャルドラマとして放送された「百年の物語」(TBS系)。脚本は橋田壽賀子、山元清多、遊川和彦という、これまでTBSドラマを支えてきた3人がリレー形式で執筆。女性の生き方は100年の間に大きく変化したことをテーマに、大正から平成にかけて、母、娘、孫、曾孫とそれぞれの世代を通して“100年”を描ききったもので、母、娘、孫のそれぞれを主演の松嶋菜々子が演じ分けていました。
特に第1夜に「大正編」でヒロインを待ち受けるのは、政略結婚、虚偽の姦通罪、無許可の堕胎による投獄……という凄まじい展開。描かれていたのは女性にさまざまな権利が与えられていなかった時代の主人公が、懸命に苦難を乗り越えようとする姿でした。そして第2夜、焼け野原と化した戦後を生きる娘の物語へと続いていきます。
安子編を観ていて気づきました。「カムカム」も女性の社会役割の変化をしっかり描きたいのではないかと。3世代、3人のヒロインがいれば価値観の変化を表現しやすいですから。つまりこの物語は家父長制と男性優位社会下で生きてきた数多の女性たちの百年史とも言えそうです。
女性とは、子を産み育てる人。母として無償の愛を与える人。妻として夫のために尽くす人。男性の補助的な役割のみ担当していればいい人。社会からそう押し付けられてきた女性たちが、その呪縛から開放され、権利を取り戻す物語という裏テーマが見えてくるような気がしています。
2022.01.17(月)
文=綿貫大介