「映像にものすごく力があるので、言葉が邪魔になってはいけない」
――2021年も様々な作品でご活躍でした。今年最後の劇場公開作品は『私は白鳥』のナレーションです。傷ついて北に帰れなくなった1羽の白鳥と、その白鳥を熱心に見守り世話をする澤江弘一さんという男性の交流を記録したドキュメンタリーですね。
『私は白鳥』では、澤江さんが本当にひたむきに白鳥を見守り続ける姿が映されています。
初めて映画を観たときは、何も知らない私たちと、澤江さんの白鳥を好きというテンションがあまりに違いすぎて、「ちょっと変わった人なのかな……?」と一瞬思いました。けど、いつのまにか私が寄って行ったのか、澤江さんが来てくれたのかはわからないけれど、その澤江さんの思いにリンクしていったんです。
時間がたつにつれて、大自然と白鳥の関係、澤江さんと白鳥の関係が、心にどんどん訴えかけてくれるものがありました。ぐっときたんです。
ひとつのものを一生懸命追いかけて、そこに命を注ぐ、魂をかける、生活のすべてをかけている澤江さんを見て、あまりにも純粋なものが流れていると思いました。そのひとときを垣間見ることができて浄化されましたし、「自分はこんなにひたむきにものごとに向き合えているだろうか?」と問いかけもしました。
――コミュニティに入れない1羽の白鳥を見た澤江さんが、感情移入して「仲間に入れてあげて」と泣いている場面もありましたよね。痛いほどの純粋さが伝わりました。
そうですよね。泣いている澤江さんを見て、私たちも「入れてあげて!」と思わず願いながら観てしまうじゃないですか。澤江さんご自身も「ここからは自然のことだから手は出しちゃいけない」と、きちんとご理解されていらして。
なおかつ「これ以上はカメラをやめてくれ」とか「自分とふたりの時間を作りたい」ということもおっしゃるので、そこにも命のふれあいを感じますよね。
白鳥たちが命を刻む瞬間を澤江さんは見ていて、その澤江さんと白鳥を私たちが観ている。こういう生き方もあるし、こういう愛し方や共鳴の仕方、共感の仕方もある。澤江さんがそうした人生を歩まれて、自分の生きる糧になっているのを知っていただくだけでも、すごく素敵なことじゃないかなと思います。
――ナレーションをする際は、どのような点に気を配って収録されていたんでしょうか?
手を出しちゃいけないところには絶対に踏み込まないけれども、できる限りの影でのフォローを一生懸命している澤江さんが、この映画では映されています。富山の大自然と、その中でひたすら命に忠実な野生の鳥を、人間の立場で線引きをしながら見守る。
とにかく映像にものすごく力があるので、言葉が邪魔になってはいけない、と思っていました。聞き取りづらくてもダメだし、映像を邪魔してもダメなので、観ていて自然に耳に入ってきて、ちゃんと内容がわかるにはどうしゃべったらいいかな、と考えながらナレーションは行っていました。どういうテンションで、音色で、声の高さで入ったらいいのか、監督にジャッジしていただこうと委ねながら。
――おっしゃるように、静かに心に響く天海さんの声が印象的でした。多くの方に観て、感じていただきたい作品ですよね。
ドキュメンタリーをお好きな方は、そもそも「観よう」と思っていただけているかもしれないけれど、そうでない方には、なかなか知っていただく機会がなかったりもするのかな、と思っています。
「素敵」という言葉だけでは括れない、大自然の厳しさや澤江さんの環境もあるし、人として、鳥として、大自然の中で生きているものの命の重さは一緒なんですよね。観たら何かを感じていただけると思います。
生きるということにまっすぐな白鳥と、見守る澤江さんの純粋なものに触れて、ちょっと温かくなりますし、浄化されると思います。ぜひ、経験していただきたいです。
天海祐希(あまみ・ゆうき)
1967年8月8日生まれ、東京都出身。最新の出演作は、10月30日公開の映画『老後の資金がありません!』やドラマ『緊急取調室』Season4など。2022年1月3日に新春ドラマスペシャル『緊急取調室』21:00より放送予定。2022年4月に舞台COCOON PRODUCTION2022『広島ジャンゴ2022』上演予定。
映画『私は白鳥』
秋が深まると北陸・富山県にはシベリアから 800羽を超える白鳥たちが越冬のため飛来し、やがて春が訪れると再び海を渡りシベリアへ帰っていく。2018年の春、翼が折れて飛べなくなり、たった一羽で富山に取り残された白鳥がいた。それを見つめる一人の男性、澤江弘一さん(当時57歳)。人間は自然にどこまで介入すべきなのかという葛藤の中、澤江さんは奮闘を続ける。傷ついた白鳥は仲間たちと再会できるのか。そして訪れる奇跡とは。これは澤江さんと傷ついた白鳥の4年に渡る命の物語。
2021年11月27日(土)
ユーロスペース、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか
全国順次公開
語り:天海祐希
主題歌「スワンソング」石崎ひゅーい(Sony Music Labels)
監督:槇谷茂博
出演・白鳥撮影:澤江弘一
企画プロデュース:平野隆 服部寿人
エグゼクティブプロデューサー:大久保竜 中村成寿
プロデューサー:刀根鉄太 藤井和史
アソシエイトプロデューサー:大澤祐樹 松原由昌 諸井雄一
音楽プロデューサー:矢崎裕行
音楽:中村巴奈重
取材:梶谷昌吾
撮影・編集:五藤充哉
製作:映画「私は白鳥」製作委員会
配給:キグー
https://www.watashi-hakucho.com/
2021.12.17(金)
文=赤山恭子
撮影=鈴木七絵
ヘアメイク=林 智子
スタイリスト=東 知代子(ポストファウンデーション)