宝塚の男役といえば、マントを翻す麗しい王子か、スマートにスーツを着こなすクールガイか、正義に燃える凛々しい戦士か……と想像する人も多いかもしれない。

 しかし女性だけが所属する宝塚歌劇団で作品を上演するのだから、当然そのなかには、嫌味ったらしかったり、ちょっとイカつかったり、お調子者だったりする役を演じるタカラジェンヌもいるわけで。

 そんな“おじさん”を演じることを自身の個性と定め、在団中、名バイプレイヤーとして人気を博した元宝塚歌劇団の天真みちるさんにインタビュー。

 自身の宝塚人生を中心に綴った著書『こう見えて元タカラジェンヌです』は、軽快な筆致とたっぷりのユーモアで、宝塚ファンならずとも楽しめる一冊に。

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まさか、退団後も行く先々で「宝塚にいてよかった」とこんなに思うとは……

――自身の宝塚人生を中心に綴った著書『こう見えて元タカラジェンヌです』は、軽快な筆致とたっぷりのユーモアで、宝塚ファンならずとも楽しめる一冊。もともとwebでの連載から始まって書籍化されたものですが、書き始めたきっかけはなんだったのでしょうか。

 宝塚歌劇団を退団してもうちょっとで1年というくらいの頃に、書籍の出版元である左右社の編集の方からお話をいただいたんです。

 でもそのときはありがたいオファーにもかかわらず何と返していいのかわからず、1カ月くらい返事もできずにいました。

 それまで宝塚の方の本といえば、前向きに努力を重ねて来られ、選ばれてきた方々による自己啓発的な内容のものというイメージがあり、自分に何が書けるんだろうって全然見当がつかなくて。

 その頃、ちょうど勤めていた会社を辞めるかどうしようか、という時期だったのもあります。

 その後、フリーランスでやっていこうという決意が固まったタイミングで、一発目にまずその連載の仕事をやれたら楽しいなと思ったんですよね。

 自分が何を書けるかを考えた時に、宝塚でスター路線とは違う道を歩いてきた自分だからこそ、これまでの方とは真逆の視点で、入団から振り返って書いたら面白いかなと思えたことでした。

 退団してから1年、全然違う仕事をしてきましたけれど、ふとした瞬間、宝塚にいてよかったと思うことがとても多かったんですね。

 舞台に立つのではなく、イベントのプロデュース的なことをしていたんですが、仕事でお会いする方のなかには宝塚時代の私を知ってくださっている方も結構いて、それがわかった瞬間から、距離があっという間に縮まって話せる内容も変わってくる。

 退団する時、宝塚にいて本当によかったと思いましたけど、まさか辞めたあとに、あらためてそう思えるなんて考えてもみなかったこと。

 そういうことも含めて、私だから伝えられることがあるんじゃないかと思ったことも大きいです。

――最初から、順調に書き始められました?

 編集の方から、できれば1話完結にして、1回につき最低でも2500字は書いて欲しいと言われて、最初は「無理だ」って思ったんですよ。

 でも、最初に書き始めたテーマが、私がどうやって宝塚を知って、どうやって入ったかだったんですね。

 意外と知られていないし、私の記憶に強烈に残っているので、これなら書けるかもしれない、と。

 で、実際に書いてみたら……なんと1万字を超えちゃったんです(笑)。

 宝塚音楽学校は、中学卒業から高校卒業までの間に4回受験のチャンスがあるんですが、私は中学卒業のタイミングで1回落ちていて、2回目で受かっています。

 そこまで書けば、なんとか2500字いけるかなと思っていたのが、1回目の受験の合格発表手前までで2500字を超えてしまって、ちょっと待て、と。

 高校1年でもう一回目指そうってなったところで5000字を超えてしまい、怖くなってしまって、編集さんに相談しました。

 結果的に、宝塚音楽学校に受かるところまでで、前・中・後編に(笑)。

 そこでよくわかったのは、私は書きたいことを簡潔にまとめるのが苦手なんだということ。

 一番伝えたいテーマっていうのはあるんですが、それだけじゃなく、一方その頃どこどこでは……っていうサイドストーリーも書きたくなってしまうようです。

 でもそのおかげもあり、第1回を書き切ったところで、この調子でいけば連載もいけるかなという気持ちになれました。

2021.09.04(土)
文=望月リサ
撮影=鈴木七絵