おじさん役は、芝居が大好きな人にとって絶対に面白いポジションだと思うから

――役作りをする楽しさに気づけたんですね。

 おじさんのフォルムに見せるために、スーツをちょっとダボっとしたものにして、肩パッドを多めに入れたり。

 ズボンを太くすると劇団が用意してくれる靴だと足が小さく見えてしまうので、市販のおじさん御用達のお店で買って、それを舞台で使わせてもらったり。

 床山さんに、自分のような丸顔に合う説得力のある髭ってどんなものかを聞きに行って、面長に見せたいときはこう、真面目に見せたいときはこう、とアドバイスをもらったり、笑って欲しいときは冗談みたいなモミアゲをつける相談をしたり。

 いつの間にか、誰に言われるでもなく自分から興味を持って研究するようになって。

 私はこっちの路線でいく、と決めてからは、むしろ使命感を持って自分から演出の先生にプレゼンするようにも。

 それだけの楽しさと、自信みたいなものをもらえたのがおじさん役で、それに関しては、すごく感謝しています。

 だからこそ“おじさん役”も、追求していけばこんなに楽しい場所なんだよってことを、下の世代に伝えていきたいとも思うんですよね。

 宝塚って、各組に70人くらいの生徒がいて、そのなかでスター路線を歩む人数は限られています。

 おじさん役だって本人の希望とは関係なく、誰にも来る可能性のあるもの。

 芝居が大好きな人にとっては絶対に面白いポジションだし、その気にさえなればモチベーションは計り知れません。

――未婚の女性だけの劇団だけに、老け役……とくにおじさんやお爺さんといった役柄を説得力をもって演じられる人というのは貴重な存在だと思います。

 宝塚の舞台は、これはとくに新人公演で言えることなんですが、公演を見終わった後に「みんな頑張っていたね」っていう感想になってしまうことってあるんですね。

 新人公演は、そういう場でもあるからそれでもいいんです。

 でも私は、演出の先生がみせたい世界、みせたい物語を、ちゃんとお客さまに伝えたいと思っていました。

 新人公演に出られている間に、本役さん(本公演でその役を演じている人)よりおじさんだったねと言われることを目指していたんですよね。

 自分が演じるおじさんが物語の中で担っている役割というのがあって、それがしっかり全うできていれば、そこで描かれる物語がより一層深まるというか。

 そこに説得力があると、作品に厚みが生まれると思うんです。

» 天真みちるさんインタビュー【後編】に続く

天真みちる(てんま・みちる)

11月18日生まれ、神奈川県出身。愛称は「たそ」。2006年に宝塚歌劇団に入団。同期には、現・宙組トップスター・真風涼帆や、元花組トップ娘役・蘭乃はな、月組スター・鳳月杏などがいる。宙組公演『NEVER SAY GOODBYE』で初舞台を踏み、その後、花組に配属。在団中は、観客の目を惹きつける魅力的な演技と高い歌唱力で、男女を問わず幅広い役柄を演じ、名バイプレイヤーとして人気を博した。とくにおじさん役に定評があり、’17年に上演された『はいからさんが通る』では、宝塚では難しいと思われた牛五郎役を見事に演じ、高い評価を受ける。また、劇団内の余興で披露するため極めたタンバリン芸でも注目される。’18年に惜しまれつつ退団。現在はフリーのイベントプロデューサーとして、舞台やイベントの企画・脚本・演出なども手がけている。

『こう見えて元タカラジェンヌです』

甥の財産を狙う下衆な男、モヒカン頭の用心棒、ガサツだけど気のいい角刈りの車引き…アクの強いおじさんを中心に、与えられたさまざまな役柄を深く掘り下げると同時に、自身のユニークなキャラクター性を交え、宝塚の舞台で名バイプレイヤーとして唯一無二の存在感を放っていた天真みちるさん。彼女が宝塚を目指すきっかけとなった出来事から、音楽学校受験の様子、入団後に味わったさまざまな試練を、たっぷりの笑いとともに綴った爆笑エッセイ。
(左右社刊/1870円・税込)

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「天真爛漫ショー大阪出張リベンジ」
こう見えて元タカラジェンヌです』出版記念特別編開催決定!

<企画構成・出演>
天真みちる

<特別ゲスト>
芽吹幸奈
鳳 真由

<日時>
2021年11月21日(日)
ランチ 12:30~/ショー14:00~
ディナー17:00~/ショー18:30~
※ディナーの公演時間が変更となりました。

<会場> 
10階「ザ・ボールルーム」

<料金> 
18,000円(お食事・お飲物・ショー・消費税・サービス料込み)

【ホテル阪神大阪ホームページ】
https://www.hankyu-hotel.com/hotel/hs/hanshin

2021.09.04(土)
文=望月リサ
撮影=鈴木七絵