子どもの頃からわりと物事を俯瞰的に見たり、斜に構えたところがあったような気がします
――サイドストーリーがあることで、書かれている出来事がより立体的に見えて、とても楽しかったです。しかも、毎回しっかりオチもあるんですよね。担当編集の方も最初から構成がしっかりとしていて驚いた、とのこと。
うちは4人きょうだいで、私はお姉ちゃんと妹、弟の真ん中なんです。
お姉ちゃんが「私はこうしたい!」って確固たる意志を両親にぶつけたりしていた時期に、私はそこまで自己主張しなくても……と思っていたのですが、妹も、末っ子時代が長かったこともあって「私はこうありたい!」っていうタイプ。
遅く生まれた弟も、長男然として大事に育てられて……。
そういうきょうだいの間に挟まれて育った私は、子どもの頃からわりと物事を俯瞰的に見たり、斜に構えたところがあったと思います。
それで、歌劇団に入った時に、自分はスター候補じゃないんだろうなって気づくわけですけど(笑)。
スター候補生の方々って、下級生の頃から本当にすごいんですよ。
宝塚というのは、これまでの数々のスターさんが築いてこられた“所作”があり、スター候補の方々はその道を踏襲して、舞台の上でその伝統を体現してくださっているんですね。
そういう方々って、自分がいかに努力したかを語るようなことはせず、パフォーマンスを見てくれたらわかるからっておっしゃる方が多い。
だから私のような、その光り輝くスターさんの背中や側面を見てきた人がそれを語ることで、伝わることってあるんじゃないかなと思ったんです。
辞めた私が宝塚を外から支えられるとしたら、そういうことかなと。
私、いつ誰がどこで何を言ったのかという記憶が、どうも周りの人よりあるみたいで。
それを自分の中だけで持っておくのではなく、宝塚を知らない人にも、こんな世界なんだってことをより魅力的に、より詳細に伝えられたらと思って書きました。
最初の3話までは、宝塚に入団するまでの自分の話なんですけれど、その後からは、自分がどんな人に出会って、どんな人に憧れて、誰に影響を受け、どんなふうに生きてきたかを書きたい。
ここまでたくさんの方にめちゃくちゃお世話になってきて、同じ道を歩まなかったとしても、私にとって大きな影響を与えてくださったということを伝えたかったんです。
緊張する集合日に、自主稽古……どんなときも面白いと思える側面を捉える
――それにしても語り口がとても軽快です。もともと、ネガティブな出来事も笑いに変えて面白がるようなところがあったんですか
人に話すとき、この通り……話がすっごく長いんです(笑)。
だから真面目に話しているだけだと、相手に長いな〜って思われるんじゃないかって強迫観念にかられてしまって。
宝塚では、自主稽古で気になったことは上級生が言わなきゃいけないんですね。
トップスターさんならば、どんなに話が長かろうと耳を傾けると思うんですけれど、私がただ説明しても、下級生からは話長いよって思われるだろうなと。
その空気に耐えられないであろう私は、どうやったら楽しく簡潔に伝えられるか、どうしたら興味を持って聞いてもらえるかを考えていたところはあるかもしれません。
あと、基本、真面目な世界ではあるんですけれど、柔らかくできるところはしたいという気持ちは、つねにどこかにあります。
宝塚の稽古初日って、意外とピリピリしているんですね。その日に配役が発表されて、台本が全員に配られて本読みをするんです。
その時、上級生順に前から座っているんですが、結構重要な役の時に後ろの方から声がすると、「誰?」って上級生たちが振り返ったりする。
その緊張感がすごすぎて、毎回逃げたくて仕方ない気持ちになるんで、集合日(稽古初日)が死ぬほど嫌いだったんです。
それでもちろん集合日やお稽古では、うまく出来なくて反省したり、怒られたり、いろいろなエピソードがあるわけですが……ただそれを人に話すとき、自分としては楽しく聞いてほしくて、ちょっと面白おかしくしてしまう。
“何々の乱”とか“何々事変”のような感じで、勝手にネーミングをつけてみたり(笑)。
ものすごく怒られた記憶も、“もう、ごめんなさいと言いたくない——2020夏”のように、タイトルをつけると少し話しやすくなる。
たとえば、真面目に伝えたい要求も、少し面白く言う方が受け入れられやすかったりしますしね。
在団中から、嫌な出来事ほど事件名とかをつけて、同期のちなつ(鳳月杏さん)とかに笑ってもらうことが多かったですね。
2021.09.04(土)
文=望月リサ
撮影=鈴木七絵