トップスターになっている方々は、努力をずっと続けることができる人
――お話を伺っていて、とても客観的に自分を分析されているんだなという印象です。天真さん自身は、自身を宝塚での落ちこぼれていたように語られていますが、実際はお芝居も歌も達者で、劇団内でもバイプレイヤーとして一目置かれている存在だったように感じます。
そう言っていただくのは嬉しいですが、宝塚にいると、蘭寿とむさん(元花組トップスター)のようにパーフェクト・オブ・パーフェクトみたいな方を目の当たりにするわけです。
これこそが上級生の鑑であり、トップスターであり、タカラジェンヌの最高峰! みたいな方々と一緒の舞台に立っていると、どうしても私も頑張ってきましたとか、簡単には言えないというか……。
明日海りおさん(元花組トップスター)や望海風斗さん(元雪組トップスター)さんを筆頭に、スター性のある方々がひしめいていた89期さんは、私と3期しか違わないので、それこそ本当に身近にその姿を見させていただいてきたからこそ、余計にそれを感じるんですよね。
スターと呼ばれる方々……とりわけ、トップスターになっている方たちというのは、努力の中身が半端ないんです。
しかも、この公演を頑張ればいい、ではなくて、その努力をずーっと継続しなければいけない。宝塚だと、各組が大劇場公演を1年に2回、小さい公演を2回と、大体4本の作品を作るのですが、そのなかで全部結果を出し続けるって相当なこと。本当にアスリートレベルですよね。しかも、みなさんとても謙虚なんです。
そうやって光り輝く人のそばにいると、自分はまだまだだなぁと思うんです。
私は、自分にはそこまでできないとわかっているから、違う方法を見つけてきた人間ですし。
藁をも掴む気持ちで始めた“おじさん役”。努力の方向を見極めることで拓けた道
――その違う方法というのが、おじさん役を究めるということなんですね。宝塚というのは劇団であるわけで、作品を成立させるには“おじさん”を演じられる役者さんというのは貴重な存在です。脇役の大事さに当初から気づいていらしたんでしょうか。
おじさん役という、他の人があまり目指さない場所を目指せば、出番がもらえるんじゃないか、劇団での居場所がみつかるんじゃないかと思ったのが最初です。
本にも書きましたが、小劇場での公演のメンバーに入らないという時期があり、自分は劇団に必要とされていない、このままでは辞めさせられるのではないかという危機感を抱いた時期があって。
そのとき限りある宝塚人生のなかで、2年近くをグダグダ過ごしてしまって、同期とも差が開いてしまったわけです。
このままじゃダメだと気づいたものの、そこから列の最後尾に並び直しても、本気で頑張ってますというアピールを見てもらえるところにすら行けないんじゃないかと追い詰められたことがあって。
そうなった時、自分が劇団にアピールできるとしたら、若手が誰も狙っていないおじさん枠だ、と。ギリギリ辞めさせられずに済むんじゃないかって。
おじさんを本気でやりすぎると、劇団の上の人に、この子はこの路線で行こうとしているんだって思われて、二枚目路線に戻るのが難しくなってしまうかもしれない。
「自分には二枚目路線はやれない」って肚を決めておかないとできないことで、下級生のうちはなかなか難しいんです。
そういうなかで、自分はここに本気で命賭けてますっていう姿をアピールしたら、わりと早くにセリフがある役を任せてみようって思ってもらえるかもしれない。
最初はそんな藁をも掴む気持ちで始めたことなんです。
なぜ入団して2年の間、いまいち本気になれなかったのかと考えると、頑張ることに楽しみを見出せなかったからなんですよね。
おじさん役に賭けてみようと思って、そこを研究しだしたら、すごく楽しかったんです。
2021.09.04(土)
文=望月リサ
撮影=鈴木七絵