2021年12月3日(金)に劇場公開される映画『彼女が好きなものは』。
原作は2019年に「腐女子、うっかりゲイに告る。」のタイトルでドラマ化されて話題を呼んだ、浅原ナオトの小説『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』。
ゲイであることを隠して生きる高校生の純(神尾楓珠)と、BL好きであることを秘密にしているクラスメイトの紗枝(山田杏奈)は思いがけず接近し、純は自身のセクシュアリティを隠したまま、“ふつう”の男女として交際を始めることに……。
作品では、セクシュアルマイノリティである当事者たちの苦悩や生きづらさ、世の中の無知と誤解が引き起こす暴力、誰の心にも潜む無意識の偏見、そしてそれに直面し自らの生き方を切り拓いていく若者たちがそれぞれの立場でくっきりと描かれている。
その中で、セクシュアリティを偽っていた純に牙を向ける重要な役どころを担ったのが、三浦獠太だ。彼はこの作品が映画初出演。監督の草野翔吾は「三浦君は圧倒的にリアルでした。それで彼に懸けることにしたんです」と起用の理由を語る。
俳優を志したきっかけや映画初出演の心境、そして目指す役者像とは。三浦獠太に迫った。
この際ハッキリしておきますが、ブラジルは旅行で行っただけ
――昨年の夏に三浦さんが正式に事務所に所属して俳優デビューされるというニュースを見て、正直驚きました。お父さんの背中を追いかけ、ブラジルにサッカー留学みたいなお話も拝見していたので……
実際そのことはよく言われるんですが、もうこの際だからハッキリ言って終わりにしておこうと思って(笑)。あれはブラジルに旅行で行っただけなんですよ。それで帰ってきたら「留学していた!」ってニュースが出て、そういうことになっちゃっただけで。僕はサッカー留学してないです。
俳優を志したルーツはスナックにあるのかもしれない
――そうなんですね(笑)。それでは、俳優という仕事は小さい頃から思い描いていたことだったんでしょうか?
いや、そんなことないんです。
そもそも芸能界はとても遠い世界の話だと思っていたので、俳優という発想自体がなかった。でも、人前で何かやることが好きでしたし、みんなが喜んでくれる姿を見ることが好きだったので、心の奥底に興味はあったのかもしれないです。
小さい頃、父親によくスナックに連れて行ってもらっていたのですが、そこでMCの真似のようなことをしていて。場を盛り上げるのが楽しかったんです。そういう意味では僕の俳優のルーツはスナックだったのかもしれない。仕事とか将来がどうとかではなくて、周りのみんなが喜んでくれるように振る舞っていたら、いつの間にか俳優の道に繋がっていたというか。
――具体的に俳優になりたいとか、自分事として意識するようになったきっかけはあったんでしょうか?
それも縁なんですよ。
ある時、知人のクリスマスパーティーに行ったらカラオケがあったので、スナックでやっていたようにMCをしたり、盛り上げていたんです。そしたら知人が「獠太君はエンターテイメント向いていると思うから演技のワークショップとか受けてみたら?」って言ってくれて。
「そういうものもあるんだ、面白そう」とワークショップを受けたことをきっかけに、今の事務所に所属することになったんです。そのワークショップのことはもう思い出したくもないですけど(笑)。
――何があったんですか?
あの日の出来事は記憶から抹消したいぐらい(笑)。恥ずかしくて仕方なかったんですよ。
僕だけじゃなく、複数人でレッスンを受けたのですが、演技経験も何もないのにみんなの前でいろいろ芝居をしなくちゃいけなくて。しかも全部アドリブですよ。その時の先生が、状況や設定だけ伝えて、その時の二人から生まれてくるものを見たい、という方針の方だったんです。
それでいきなり女性をお姫様抱っこさせられて、「三浦くん、君は今何がしたい? どうしたいと感じる?」って聞いてくるんです。僕はわけもわからずありのまま気持ちを答えたり、リアクションしたりして。そんなのがもう矢継ぎ早に飛んでくるんです。
恥ずかしいし、みんなに笑われるし。何とかその場はやり切ったんですが、もう僕としては意気消沈ですよね(笑)。家にそそくさと帰って布団にくるまって「なんだったんだろう今日は。もう俺の人生終わった……」みたいな。
そしたら後日事務所の方から連絡いただいて、所属することになって驚きました。演技とかとにかく初めてだったけど、恰好つけずに全力で取り組んだのが良かったのかなと今では思いますけど、細かく振り返りたくはないです(笑)。
2021.12.02(木)
文=CREA編集部
写真=末永裕樹