初めての映画がこの作品で本当に良かった

――事務所に所属されて初めてオーディションで合格した作品がこの『彼女が好きなものは』だったと伺いました。草野監督は「三浦君は圧倒的にリアルでした。それで彼に懸けることにしたんです」と小野役への三浦さんの起用の理由を語っていますが、三浦さんから見た小野という役柄の印象はどんな印象ですか?

 監督は僕と小野は重なると言ってくださいましたが、僕自身は小野とは全体のキャラクターとしてはあまり似ていないと思います。僕はどちらかというといじられキャラなので。

 でも、小野は作品の中で誰しもが共感してしまう部分を担っているんじゃないかと感じました。リアルなところで悩んでいる人間というか。

 セクシュアリティをみんなに隠していた主人公の純に対して、小野が強烈な言葉を投げてしまうシーンがあるのですが、小野は自分なりの正義とか正しさに縛られていて、それを貫こうとするがあまり、他の人を知らぬ間に傷つけたりしているんじゃないかな。

 そういうことは、大なり小なり、誰しもそういう経験をしたことがあると思う。僕自身も過去に不器用だったり、知らないが故に人を傷つけたことがありました。

 そういう意味でも、小野の存在は作中でも凄くリアルな役柄で、一つひとつのセリフにしっかりと意味と重さがあるんだと感じました。

――小野がいることで、作品が大きく展開するだけでなく、シーンとしても数多く登場する重要な役柄だと思います。この作品は映画としては初出演、ドラマなどを含めても3作目ということですが、その辺りはどうでしたか。

 いやもう、最初は不安でした。テーマもデリケートだし。不安はあったんですが、とにかく全力でやっていくしかないなと。僕は演技経験もないですし、技術もない、本当にゼロという状態だったので。日々勉強の毎日で、とにかく食らいついていくしかないぞ、と割り切るだけでした。

 でも、初めての映画がこの作品で本当に良かったです。現場のみなさんが「いい作品を作るんだ」という気概に満ち溢れていて。映画というのはみんなで作るものという意識を肌で感じることができたのは良い経験でした。それまではどうしても自分の演技に精一杯で視野が狭かった部分もあったので。一体感のある現場ですごく勉強になりました。

――演技をしている中で、このあたりは難しかったとか、印象に残っているシーンはありますか。

 初日に撮影したシーンですね。亮平(前田旺志郎)と純がじゃれあっているのを見て「お前らほんと仲いいな」っていうカットがあるんですが、そこだけで10回ぐらいNG出しちゃったんです。その時はもう「やっちゃった……」という感じ。試写の時も、そのシーンはドッキドキで観ていられなかったです(笑)。

プレッシャーに向き合うことで大きな力になる

――初日にそんな厳しいことがあったんですね。

 そうなんです。でも、撮影に臨むにあたって、へこたれないようにとは意識していました。常にポジティブであろうとしていたというか。

 監督もスタッフも、いいものが撮れるまでとことん付き合ってくれましたし、僕自身も「まだまだ自分は経験値が足りていないんだから、失敗は当たり前、次にちゃんとやれればいいじゃないか」と気持ちを切り替えて仕事に向き合うように心がけました。

――ビッグスター二人のお子さんということで、小さいころからプレッシャーを乗り越えることには慣れていたということなんでしょうか。

 いや、実はそれはむしろ逆というか。小さいころはプレッシャーから避けるようにしていたんです。サッカーをやっていたりするとあれやこれや言われることもあったんですが「俺は俺だから」と聞かないようにしていました。

 でもこうして俳優という仕事をするようになったからには、プレッシャーや周囲の言葉や期待に嫌でも向き合わなくてはならない。プレッシャーと真摯に向き合って初めてわかったのですが、跳ね返してやろうという気持ちを持って立ち向かえば、むしろそれは自分の大きな力になるんだなと実感しましたね。

――これから俳優という仕事をしていくにあたって、目標などがあれば教えてください。

 ヒーローのような俳優になりたいです。ヒーローって言葉だけだとちょっと子どもっぽく感じるかもしれませんが、僕の言う「ヒーロー」は観ている人に元気を与える人間。モチベーションになるというか。

 実際の役者さんで言うと長瀬智也さん。落ち込んでいる時とかに長瀬さんの作品を観ると、やっぱり勇気をもらえるし、頑張ろうと思える。そういう存在の役者さんになりたいです。それが僕にとってのヒーロー像です。

――子どものころの「周りのみんなを喜ばせたいだけ」という思いに繋がっていますね。

 確かに! 僕のエンターテイメントの原点は本当にスナックにあるのかもしれない(笑)。いつの日か、もっとたくさんの人に喜んでもらうためにも、今は全力で役者という仕事に取り組んでいきたいです。

三浦獠太(みうら・りょうた)

1997年9月5日生まれ。東京都出身。2020年に俳優デビュー。「君と世界が終わる日に Season2」、「コントが始まる」、「顔だけ先生」などに出演。『彼女が好きなものは』は映画初出演作品。

映画『彼女が好きなものは』

監督・脚本:草野翔吾
原作:浅原ナオト「彼女が好きなものはホモであって僕ではない」(角川文庫刊)
出演:神尾楓珠 山田杏奈 前田旺志郎 三浦獠太 池田朱那 渡辺大知 三浦透子 磯村勇斗 山口紗弥加/今井 翼
2021年12月3日(金) TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
2021年/日本/121分
https://kanosuki.jp/

2021.12.02(木)
文=CREA編集部
写真=末永裕樹