演じるなかで「結果的にセリフが少なくなる」とき

――今回はセリフに頼らず、表情や佇まいで魅せていくシーンが多かったと思います。だからこそ、「こういう風にしよう」と思ってしまうと、演技の深奥にまで辿り着けないということでしょうか。

 そうですね、ただ、演じる側としては、思考の順番が逆かもしれません。「セリフが少ないから表情や他の部分で表現しよう」ではなく、「このシーンを表現するためにはどうするか」がまずあって、「喋らないほうがいい」と判断した部分もあるんです。そういった順番を辿っていくので、結果的にセリフが少なくなったんですよね。

――なるほど。

 僕にとっては、セリフを言うも言わないも、演じるうえでは同義なんです。言うべきときに言わないのは気持ちが悪いし、言わないほうがいいのに言うのも気持ち悪い。だから実際にその場で、「喋りたくない」と感じたら台本に書かれていても言わないし、逆に台本に書かれていなくても喋るべきときが来たら喋ります。

――心身ともにハードな撮影だったかと思いますが、瀬々監督は「佐藤さんは撮影期間中、カメラが回っていないときも役に入り込んでいた」と仰っていたそうです。

 そうですか? 無自覚にそういうところがあったのかもしれませんが、記憶にないな……(笑)。

 でも、今回の撮影は正直めちゃくちゃ大変でした。体力的にも精神的にもこんなにハードなものになるとは当初は想定していなかったので、無我夢中ではありましたね。

――それだけ集中されていたということなのかもしれませんね。本作は宮城での撮影でしたが、休憩時間などはどう過ごされていたのでしょうか。

 ひとりで部屋に居ました。コロナ禍での撮影だったので、みんなで一緒にどこかに行くことはできなかったんですよね。

――部屋では、趣味の謎解きなどをされたり?

 どうだったかな(笑)。時間があったときはしていたかも。

――最後に改めてですが、「生活保護」というテーマを含め、この『護られなかった者たちへ』はいまの時代と密接に絡み、重なる映画だと思います。素晴らしい力作でした。

 ありがとうございます。この作品で描かれているようなことが震災後にあったんだと想いを馳せていただけたら嬉しいです。

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佐藤 健(さとう・たける)

1989年3月21日生まれ。埼玉県出身。2007年に「仮面ライダー電王」でドラマ初主演。ほか「ROOKIES」、「メイちゃんの執事」、「Q10」などに出演後、映画「るろうに剣心」シリーズで幅広い層から人気を集める。2017年の映画「8年越しの花嫁 奇跡の実話」では第41回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。2021年3月末で15年間在籍したアミューズから独立し、「Co-LaVo」に移籍。2022年にはNetflixオリジナルドラマ「First Love 初恋」の配信が控えている。

映画『護られなかった者たちへ』

東日本大震災から10年目の仙台で、人格者と慕われる人物が全身を縛られたまま餓死させられる不可解な殺人事件が相次いで発生。捜査線上に浮かび上がったのは、別の事件で服役していた利根という男(佐藤 健)だった。刑事の笘篠(阿部 寛)は利根を追い詰めるも決定的な証拠がつかめないまま、第3の事件が起きようとしていた。
無残な殺し方の理由、利根の過去。事件の裏に隠された、切なくも衝撃的な事実とは――。

出演:佐藤 健、阿部 寛、清原果耶、林 遣都、永山瑛太、緒形直人、吉岡秀隆、倍賞美津子
主題歌:桑田佳祐「月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)」(タイシタレーベル/ビクターエンタテインメント) 
原作:中山七里『護られなかった者たちへ』(NHK出版)
監督:瀬々敬久 
脚本:林 民夫・瀬々敬久  
音楽:村松崇継  
配給:松竹
https://movies.shochiku.co.jp/mamorare/

2021.09.30(木)
文=SYO
撮影=釜谷洋史
ヘアメイク=古久保英人(OTIE)
スタイリスト=中兼英朗(S-14)