「狙いにいった瞬間、クリエイティブは死ぬ」

――たしかに、今回の映画は原作に比べて生活保護や震災の描写を補強していると思います。

 変わっているところも多いかもしれませんが、僕としては原作のコアな部分が失われなければ大丈夫だと考えていました。映画がどこに比重を置くか、何を描きたいかは瀬々監督を信頼し、お任せしていましたね。

 僕自身が気を付けていたのは、自分が利根を演じるうえでのコアな部分。孤独だった利根が、けいさん(倍賞美津子)や1人の小学生と出会って、初めて「家族」と思える大切な存在を護りたいと感じていく。そこの流れ、つながりがちゃんと深く描かれているかどうかは、こだわったつもりです。

 僕自身、利根には共感できる部分が多くありました。ちゃんと自分の中に正義があって、人としてブレない芯がある。その利根が、大切な存在を失ったことで、理不尽さ・悔しさ・怒りをとにかくぶつけるという流れがあれば自分は演じられます、と監督には話しましたね。

――瀬々監督とは『8年越しの花嫁 奇跡の実話』(17)以来2度目のタッグですが、変わったところ・変わらないところは?

 僕も監督も、基本的な部分は変わらないと思いますね。もちろん、作品が変わればアプローチも変わりますから全く一緒ということはないでしょうが、作品のために最善を尽くすという部分は同じです。

 瀬々監督は、映画の本質をすごく深いところで理解している人だと思います。瀬々監督の下だと良い芝居が生まれるけど、監督はそれを引き出そう・演出しようとはしないんです。

 これは持論ですが、何かを狙いにいった瞬間、クリエイティブって死ぬんですよね。瀬々監督にはそういった部分がなく、本質を大切にしているから、良い芝居や作品が生まれるんだと感じます。

――「狙いにいくとクリエイティブが死ぬ」、シビれる言葉です。

 普段生きていて、「こういう風にしゃべろう」とは思っていないじゃないですか。当たり前のことですが、役者が「こういう風にしよう」と思っちゃったら、やっぱり駄目なんです。

――作為的になってしまうと。

 そうですね。だから僕自身、柔軟でいられるようにはしています。色々な現場がありますし、ひとつのポリシーを立ててどこでもそれを貫くということではなく、現場ごとに変えています。

 俳優はそういうことを日常的にやっていて、徐々に「こういう風に力を抜いて現場にいないとダメだな」と見えてくるのですが、それは自分たちのことだからわかることでもある。でも瀬々監督は、全ての場合においてその本質をわかっている人なんだと思います。

2021.09.30(木)
文=SYO
撮影=釜谷洋史
ヘアメイク=古久保英人(OTIE)
スタイリスト=中兼英朗(S-14)