『ドライブ・マイ・カー』が日本作品初の脚本賞に!
結果はすでに報道でご存知だろうが、最高賞パルムドールはフランスのジュリア・デュクルノーの『TITANE』に決まり、そして『ドライブ・マイ・カー』が日本作品として初の脚本賞(濱口竜介、大江崇允)を受賞した。
デュクルノーは、『ピアノ・レッスン』のジェーン・カンピオン以来、28年ぶり、長い歴史でまだたった二人目のパルムドール受賞女性監督となった。長編は『RAW 少女のめざめ』に続くまだ2本目と言う37歳の若手だ。
本音を申せば(という名の、小林信彦さんの週刊文春連載が終わって寂しいです)、『ドライブ・マイ・カー』は脚本はもちろん、“サウンド&ヴィジョン”の総合体として傑出していて、各映画誌などの星取表でもアピチャッポン・ウィーラセタクンの『MEMORIA』と1、2を争っていたので、少なくともグランプリか監督賞かと予想していた。
でも以前も書いたけれど、映画祭はあくまで審査員団が選ぶ賞ため、我々プレスとは意見が被らないことも多く、とはいえ脚本賞も素晴らしい賞なので、濱口監督おめでとうございます!
『ドライブ・マイ・カー』は3時間のドライブとして、心地良く響く音と共に、時々窓を叩く不穏な風(岡田将生がそれを象徴して素晴らしいのだ)に心を揺さぶられる。そう言えば『MEMORIA』も音の記憶の映画だった。もしかしてコロナの時代において、私たちは閉ざされた空間の中で、音をより意識しているのかもしれない。
『TITANE』は、交通事故で頭にチタンが埋め込まれたヒロインがキャデラック(車です)とセックスをしたり、周囲を殺しまくった挙句、消防署長の行方不明の息子になりすますけど、キャデラック(車です)との子供を妊娠している、という、てんこ盛りの内容で面白いんだけど、SFホラーとしては枠内でのぶっ飛びぶりにも思えたのだ。
それでも、審査委員長のスパイク・リーがうっかり授賞式で最初にパルムドールをネタバレしてしまうという(“最初”の賞と“一位”の賞は、英語ではどちらもFirst awardなので勘違いしたらしい)、歴史的瞬間も観られたので、カンヌまで来た甲斐があったというもの。
ちなみにマダムアヤコ(お忘れかもしれないが、自称マダムである)は、同性愛者として宗教裁判にかけられた実在の修道女を描くポール・バーホーベン(『エル』)の『BENEDETTA』と、レオス・カラックス(『ホーリー・モータース』)が監督賞を受賞したミュージカル『ANNETTE』も推していたのだが、バーホーベンが無冠で終わったのは残念。
スパイク・リーは『TITANE』を「キャデラックで妊娠する映画を初めて観たよ」と語ったが、それに倣えば『BENEDETTA』は「マリア像を***に使う映画は初めて観たよ」だったんだけどなあ。そして修道女ベネデッタが疫病ペストを防ぐため街をロックダウンする様子など、まるで今の話のようだった。
『TITANE』も『BENEDETTA』も娯楽映画のフォーマットを使ったフェミニズム映画でもあるが、審査員は若い才能に脚光を当てることを選んだ節がある。どっちも振り切ってて、面白いんだけどね。
2021.09.11(土)
文・撮影=石津文子