黒木華と柄本佑。日本映画界に欠かせない人気実力派のふたりが、夫婦役として顔を合わせた。2021年9月10日に劇場公開を迎える映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』だ。

 結婚5年目の夫婦・佐和子(黒木華)と俊夫(柄本佑)。ともに漫画家であるふたりは、仕事も家庭も、お互いを支え合いながら過ごしていた。しかし、佐和子はある日、夫の不倫を知ってしまう。その後、彼女は「不倫」をテーマにした新作漫画を描き始めるのだが……。これは現実か、妄想か? 佐和子の漫画を読んだ俊夫は、疑心暗鬼に囚われ追い詰められていく。

 『ブルーアワーにぶっ飛ばす』、『哀愁しんでれら』などを送り出してきたクリエイター発掘企画「TSUTAYA CREATORS PROGRAM」の受賞作だけあって、アイデアもストーリーも絶妙。先読みできない展開が畳みかける、一級のエンタメ作品に仕上がっている。

 今回は、黒木と柄本にインタビュー。作品の話から入ったものの、漫画トークになるとふたりの趣味が爆発。劇中さながらの息の合った掛け合いを披露するふたりの趣味談義をクスクス笑いながら楽しんでいただきたい。

「役者を続けていくなら、怖いと思う場所に立っていくべき」(柄本)

――本作、脚本段階で相当面白かったのではないかと拝察しましたが、いかがでしょう?

柄本 おっしゃる通り、本当に脚本が良くできていて、ひとりの読み手として翻弄されながら楽しみました。映画通好みの作品すぎず、かといってライトすぎることもない、つまり観る人を選ばない映画にしようという堀江貴大監督の意志を感じましたね。

 コメディやミステリーやホラーなど、多ジャンルが詰め込まれたエンタメ映画を志しているんだろうなと感じました。いまの映画だと、こうしたタイプの娯楽作は珍しいですよね。出来上がった作品を観ても、「誰が観ても面白い」と感じました。

黒木 私もすごく面白い作品だなと思いました。佐和子の本心の見えなさ加減もそうですし、漫画と実写が重なりあう瞬間が、どういう風に映画になるのかとても興味がありました。完成したものを観て「こういう風になっていたんだ!」と気づきましたね。

――おふたりは普段、どのように脚本を読んでいくのでしょうか。

黒木 まずは単純にストーリーを読んで、その後でもう1回、自分の役目線で読みますね。「どんな話、どんな役なんだろう」、「どういう風に演じよう?」と思いながら読み込んでいきます。

柄本 僕の場合は、「出番は1シーンだけど石橋蓮司さんや岸部一徳さんとがっつり共演できる」、「監督が根岸吉太郎さんや高橋伴明さん」だったら、内容とか関係なく「ぜひ出させてください!」となりますね。元々映画好きでこの世界に入っているので、憧れの監督の現場を見られたり、大好きな先輩の役者さんと芝居できるなら、一も二もなくという感じです。

 もちろん怖さはありますが、絶対にやるべき仕事だと思いますね。役者を続けていくなら、怖いと思う場所に立っていくべきだから。

黒木 なるほど! 良い言葉ですね。

柄本 あとは、基本的に「自分がこの役をやる」という感覚が、よくわからない(笑)。監督なり周りの人たちが僕のなかにこういう一面を見てくれているんだな、と考えるところから始まるから、「この役をやりたい」というよりも、共演者や監督で決めることが多いですね。

 仮に新人監督の作品だったら、「わからないことだらけだから逆にやってみる」という感じでしょうか。今回のように、脚本がとにかく面白いケースは珍しいかもしれません。

2021.09.09(木)
文=SYO
写真=榎本麻美
スタイリスト=申谷弘美(黒木) 、林道雄(柄本)
ヘアメイク=新井克英(黒木)、星野加奈子(柄本)