ソン・ガンホら熱い思いで集結した9名の審査員たち

 時々、アカデミー賞とカンヌ映画祭の違いを聞かれるが、簡単に言えばアカデミー賞はアカデミー会員による投票制だが、カンヌは9名の審査員団による合議制だ。だから、その年の審査員が誰か、はとても大きく影響する。

 今年は前回『アトランティックス』でグランプリを受賞したマティ・ディオプら女性5名と、前回のパルムドール受賞作『パラサイト』に主演したソン・ガンホ、俳優タハール・ラヒムら男性4名という構成で、カンヌ史上初めて女性審査員が多い形になった。

 史上初だの、2度目、だの将来的にはそんなことを言及されない世の中になってほしいが、まずはガラスの天井の1枚くらいは外れたかもしれない。

 ちなみに9人の審査員の中で、おそらく一番大変な思いをしてカンヌに来たのは韓国から来たソン・ガンホだろう。正確に言えば、来ることに大きな問題はない。

 7月時点で、韓国からの渡航者はフランス入国時に72時間以内の陰性証明があれば、検疫期間はなしで済んだ。日本やオーストラリアからも同様で、入国自体はそれほど難しくはなかった。しかし、韓国への帰国時は2週間の自主隔離が必要で、名優ソン・ガンホとて例外ではない。

 ちなみに『パラサイト』の監督ポン・ジュノも映画祭の開幕式に登場し、マスタークラスも行った。授賞式にはプレゼンターとしてイ・ビョンホンも登場。韓国映画界でも1、2を争う人気者たちが2週間、スケジュールを空けるのは大変だったに違いない。それでもカンヌを、ひいては映画を取り戻すため、彼らはやって来た。多くの人が同じ想いだったろう。

石津文子 (いしづあやこ)

a.k.a. マダムアヤコ。映画評論家。足立区出身。洋画配給会社に勤務後、ニューヨーク大学で映画製作を学ぶ。映画と旅と食を愛し、各地の映画祭を追いかける日々。執筆以外にトークショーや番組出演も。好きな監督は、クリント・イーストウッド、ジョニー・トー、ホン・サンス、ウェス・アンダーソンら。趣味は俳句。俳号は栗人(クリント)。参加する俳句同人「傍点」の創刊号発売中。「もっと笑いを!」がモットー。片岡仁左衛門と新しい地図を好む。

2021.09.11(土)
文・撮影=石津文子