デビュー前のグループ名に衝撃

 スタレビ楽曲は少し日本人離れした洗練感があり、良い意味で時代を感じさせない。加えて私が「夢伝説」と出会ったのは、発売からかなり後だった。そのせいか、彼らのデビューは音楽が多様化していった1980年代後半ごろかなとずっとカン違いしていた。まさか1981年って! 私が小学校で「ペガサスの朝」(五十嵐浩晃)を口ずさんでいた頃じゃないか。ザ・ぼんちの「恋のぼんちシート」を、友達と「そうなんですよ川崎さん……」と真似しながら歌っていた頃じゃないか!

 寺尾 聰が「ルビーの指環」、近藤真彦が「ブルージーンズメモリー」、横浜銀蝿が「ツッパリ High School Rock'n Roll〈登校編〉」で黄色い声援を受けていたあの頃に「シュガーはお年頃」が発表されていたとは驚きである。それほどナツメロ感ゼロ。

 好きなわりには、彼らのことをあまりにも知らな過ぎる。そんな反省から、改めて彼らの公式HPをチェックしてみた。すると「BIOGRAPHY」にこんな記述が。

 “1979年 10月7日 スターダスト☆レビューの前進「ジプシーとアレレノレ」として、ヤマハ「第18回ポピュラーコンテスト」本選会に出場。「おらが鎮守の村祭り」で優秀曲賞を受賞。”

 衝撃でマウスをスクロールする手が止まった。

 「ジプシーとアレレのレ」というバンド名、そして「おらが鎮守の村祭り」という曲タイトルを、人生を左右する賞獲りレースにぶつけてくる度胸……!

 特にバンド名は酒の席でつけた疑惑がチラつく響きだ。いや待て。伝説のデュオ「あのねのね」リスペクトなのかもしれない。あまりにも気になったので色々と調べてみると、彼らはライブができればバンド名はなんでもよく、「アレレ」は楽器店の人につけられたのだとか。

 こっ、このこだわりのなさ! 私の想像を遥かに上回っていた。

 しかし今となっては「アレレのレ」だろうが「トホホのホ」だろうが、彼らは変わらず活躍していた気がする。そんな風に思えてしまうほど、スタレビの音楽は心を惹きつける。

不思議と涙が浮かぶ、独特の浮かれ感

 「おらが鎮守の村祭り」は、タイトルは驚くものの、最高にハッピーなサンバテイストの曲だ。これを始め「シュガーはお年頃」「銀座ネオン・パラダイス」「ブラックペッパーのたっぷりきいた私の作ったオニオンスライス」など初期の彼らの楽曲は、脳みそがパッカーンと開くような解放感!

 ハッピーソングは数々あれど、この浮かれ感はスタレビ独特。明るいのだけど、ちょっとメランコリックのスパイスが降りかかっているのだ。心から「楽しいねえ」と言った途端、わけもないのに涙が浮かぶあの感覚。

 こんなに明るい曲ですら涙腺を刺激するので、バラードはもはやデンジャラスゾーン。特に女性は「木蘭の涙」「追憶」「横顔」などは、電車など人の目があるところで聴かないほうがいい。メイクが落ちる可能性がある。一人部屋で聴いたほうが安全である。

2021.07.30(金)
文=田中 稲