ムンクとは違った「叫び」の表現は、濃い闇の中へ

叫ぶ教皇の頭部のための習作:1952年 油彩・キャンバス 49.5×39.4cm イエール・ブリティッシュ・アート・センター © The Estate of Francis Bacon. All rights reserved. DACS 2013    Z0012

「叫び」というと反射的にムンクの有名な絵画作品を思い出すかもしれない。だがあの絵は叫んでいる人物の他にも、その心象を表現するかのような空や、背後に立つ人物を描いている。一方ベーコンの《叫ぶ教皇の頭部のための習作》の背景は闇に閉ざされ、恐怖や悲しみなど、人間を叫ばせている理由や感情がどこにも見当たらない。そして開かれた口から発されているはずの大音声に自分が震撼させられているのか、その中に黒々とわだかまる、背景よりなお濃い闇に飲み込まれそうになっているのか、判然としなくなってしまうのだ。

リース・ミューズ7番地にあったフランシス・ベーコンのアトリエ:1998年撮影:Photograph by Perry Ogden © The Estate of Francis Bacon. All rights reserved. DACS 2013    Z0012

 ちなみにこの作品は、セルゲイ・エイゼンシュテインによる映画『戦艦ポチョムキン』(1925年)の登場人物がモチーフにされていることでも有名(左目の下の楕円はオデッサの階段のシーンで叫ぶ乳母の画像の引用であることの証左)だが、ベーコンはエドワード・マイブリッジの連続写真をはじめ、さまざまな写真をイメージソースとして絵を描いた。そして叫びをモチーフとする一連の作品に登場する人物は、友人の姿からローマ・カトリックの頂点である教皇へと変更される。この教皇像についても、17世紀スペインの画家、ベラスケスによる《教皇インノケンティウス10世の肖像》が常に参照されていた。

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2013.04.27(土)