映画『エイリアン』を連想させる作品群
今回の展覧会は、ベーコンにとって最も重要なモチーフだった「身体」に着目、その表現方法の変遷を3章構成でたどるというもの。ベーコンの名やその作品を知らない人でも、多くの表現者たちに影響を与えたベーコンの「身体」を、もしかすると別の形で目にしているかもしれない。筆者も初めてベーコンを知った時、まず思い出したのが映画『エイリアン』(1979年)に登場した、H・R・ギーガーのデザインによる「エイリアン」の幼生だった(アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』に登場する「量産型エヴァンゲリオン」も、同じ系譜に連なる造形に見える。牙を持ち、赤く縁取られた巨大な口!)。
ベーコン自身が事実上の「処女作」と見なした三幅対(トリプティック)、今展には残念ながら展示されていない、イギリス・テートが所蔵する《ある磔刑の基部にいる人物像のための三習作》はまさにその「ソース」だとされる。
展覧会冒頭、「第1章:移りゆく身体 1940s−1950s」に展示されている、「処女作」とほぼ同時期に描かれた《人物像習作II》も、鮮やかなオレンジ色を背景に、動物とも人間ともつかない生き物が口を開いている。
大きく開かれた口は、初期のベーコン作品の重要なポイントだ。ふたつの世界大戦を体験した画家が、「破壊されてしまった後の世界」を、それでも生きる人間の本質を描こうとした時、まず登場したのが「叫び」を主題とした作品であり、そこには亡霊のように不確かな身体が伴われていた。
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2013.04.27(土)