自分の表現のコアにあるのは、しがらみに縛られない、むき出しの自分

――  ひとつの役に出会ったことで、水原さんが実人生で体験したよりもつらい人生を送ったわけですが、やっぱりそのつらさを乗り越えた先でなければ掴めない光があるんでしょうね。

 『あのこは貴族』が公開されて、いろんな感想を聞くことができて、あとはちょうどこの映画が世界同時配信される4月15日(木)に、『夢の続き Dream Blue』という写真集を出すんですが、それを作っているときに思ったんです。

 自分の表現のコアにあるのは、しがらみに縛られない、むき出しの自分なんだって。今回、『彼女』で、むき出しの自分のまま役と格闘できて、役者としても私はそういう現場に立てるんだとわかったことは大きかった。

 これからもいろんな表現をやり続けると思うけれど、ファッションでも、アートでも、お芝居でも、「今、私はこれに全力を注いでいます!」って堂々と言えるような作品に出ていきたいです。バジェットの大きさとか、話題作かどうかは関係なく、どんなに魅力的な条件であっても、自分が自信を持ってお勧めできそうになかったり、共感できない作品には「NO」と言える勇気を持っていたい。

 今回のコロナ禍で私が強く思ったのは、時間って尊いんだなってことです。明日何が起こるかわからない。死というのは、誰にも1回は訪れるもので、死を前にしたらみんな平等なんだということを思い知らされた。いつ死ぬか分からないなら、悔いがないように生きたいじゃないですか。

 今までは「経験値を上げたい」と思ってやってきたことも多くて、それはもちろん無駄ではなかったと思います。やってきて良かった。

 でも、これからは、それが自分が全力を注げる作品かどうかを見極めてから参加したい。私は自分の全てを晒す覚悟で挑むので、そのことに対してリスペクトを持ってくれるスタッフに出会いたい。同じ志を持てる人たちと“ものづくり”をしていきたいなと、この作品と出会ったことで、強く思いました。

――今こうして、希子さんがものづくりに「本気で取り組みたい」と語る姿は、レイが七恵を本気で愛し抜く姿にもシンクロします。役者の面白いところは、役との出会いによって、それまで閉ざしていたかも知れない自分の扉が、一気に開けることがあることかもしれない。

 そうですね。「嘘なく生きる」というのが、レイと私の共通点だということに、レイという役と出会ったことによって気づけたのかもしれないです。

 『彼女』は、自分たちなりの愛を探していく、滅茶苦茶大きな愛の物語だと思う。レイは不器用で、大胆で、手段を選ばないところがあって(笑)、そこがすごくチャーミングなんですけど、七恵との違いは、たくさんの愛を受けて育ってきたってことなんですよね。同性愛者であることを母親に理解されなかったり、学生時代にレズビアンであると噂されて疎外感を感じていたことはあったにせよ、愛というものがどんなに優しくて温かいものかをレイは知っていた。

 でも不器用だから、それも自分なりの愛の表現だと思い込んで七恵にお金を貸して、かえって七恵は自分が支配されてしまったような居心地の悪さを感じていた。経済的にも家族関係も恵まれていたレイは、「お互いが対等じゃなくなる」、残酷さに気づけないんですよね。

 10年後に再会した2人は、人を殺めたことで、一緒に苦しんで、一緒に悩んで、一緒に葛藤し、一緒に逃亡します。いろんなものを犠牲にしながら、レイは、七恵に大きな愛を伝えることができます。2人がちゃんと大きな愛に包まれたとき、レイは七恵を所有するんじゃなくて、手放すような気持ちになっている。それが、2人にしか辿り着けなかった愛の形で。たぶん、どれが正解とかじゃない。

 とにかく、「全力でやりました!」と言い切れる作品です。自分にとって愛するって何だろうと考えるきっかけになったり、身近な人を大切にしようと思ったり、身の回りの愛について考える時間になってくれたらいいな、なんて思います。

水原希子(みずはら・きこ)

1990年米国生まれ。モデル、女優、デザイナー、プロデューサー。2003年よりモデルとして活躍。女優デビューは映画『ノルウェイの森』(2010)年。18年にはアジア人初のDior Beautyアンバサダーに抜擢された。2021年公開の映画『あのこは貴族』の等身大の演技が話題に。最新写真集『夢の続き Dream Blue』がNetflix映画『彼女』が世界同時配信される4月15日に刊行。日常的な感性をアーティスティックなに発信するインスタグラムは570万人以上のフォロワーを持つ。

Netflix映画『彼女』

永澤レイ(水原希子)は、高校時代からずっと片想いしていた篠田七恵(さとうほなみ)が、夫から壮絶なDVを受けていると知り、七恵を救うためにその夫を殺害する。2人で一緒に逃避行する途中で、それぞれが根源的に抱えていた葛藤が浮き彫りに。愛や憎しみの感情がむき出しになっていく中、次第にお互いへの感情に変化が訪れ――。原作は、中村珍の漫画『羣青』。監督は廣木隆一。テーマ曲は細野晴臣が担当している。他にも真木よう子、鈴木 杏、田中哲司、南 沙良、新納慎也、田中俊介、鳥丸せつこらが出演している。

監督:廣木隆一
原作:中村珍「羣青」(小学館IKKIコミックス)
脚本:吉川菜美
出演:水原希子、さとうほなみ、真木よう子、鈴木 杏、田中哲司
Netflixにて2021年4月15日(木)より全世界独占配信

2021.04.14(水)
文=菊地陽子
撮影=佐藤 亘
スタイリスト=小蔵昌子
ヘアメイク=白石りえ