多忙なアイドル時代、時間を見つけては本屋に行き、2005年から約10年間、読売新聞で読書委員を務めていた小泉今日子さん。

 そんな彼女がオーディオ配信プラットフォーム「Spotify」で、「本」をテーマにさまざまなゲストと対談するポッドキャスト番組、『ホントのコイズミさん』をスタートする。

 ここ数年はプロデューサーとしての才能を発揮しながら、表現者として常に先を見つめる小泉さんに、番組への想い、新しい生活のなかでいま思うことについて東京・中目黒にある書店COW BOOKSで聞いてみた。


読書って静かな行為なのに、新しい扉がどんどん開いていく

――今月から新たに音声コンテンツの番組が始まりますが、ポッドキャストというメディアを選ばれたのはなぜでしょう?

 去年の春にステイホーム期間が始まって自宅で過ごす時間が増えた方が多いと思いますけれど、私自身もそうした時期を過ごして、改めてサブスクリプションの音楽配信を活用することが増えたんです。そうしたときに、Spotifyさんからお話をいただいたことがきっかけです。

 スポンサーがなく比較的自由に作れるというのもおもしろそうだったし、あとは、音が良いのではないかと思ったことも大きいですね。

 すごく小さな声で話しても音楽みたいに聞こえる、そんなところに魅力を感じました。

――小泉さんは本が好きなことでも知られていますが、この番組も「本」がテーマと伺いました。

 対談形式にすることは決まっていたんですけど、最初はテーマが決まっていなくて。何にしようと思ったときに、本屋さんが浮かんだんです。

 いま本屋さんは多様化していて、ファッションのお店と同じように本をセレクトして置くところが増えていますよね。

 店主やバイヤーによってまったくチョイスが違いますし、本以外のものを扱うところもあって、そこに個性が表れ、細分化されていく。

 そうしたお店が本だけでなく他に何を提供しようとしているのかということに興味があって、お話を聞いてみたいという気持ちがもともとありました。

 それに、純粋に本を読むことの醍醐味を分かち合いたいという思いもあります。読書って、すごく静かな行為なのに、自分の中で新しい扉が開いていくところに大きな楽しみがあると思うんです。

 他の人から見たらただ黙って本を開いているだけ。でも、心の中ではどこにでも行けて、何でもできる。それこそ宇宙にだって行けるし、激しく怒ることも、号泣することもできます。そういう体験ができる行為って、他にはないですよね。思いも寄らなかった感情の扉を開けてくれる。

――活字を読んでいるだけなのに感情が揺さぶられる。

 もっと言えば感情だけじゃなくて、次の行動を導くものでもあると思います。例えば本の中で「目黒川」という名称が出てきたら、行ったことはなくてもイメージがふくらんで、関心が向いて、訪ねてみようという気持ちになったり。

 読書は静かな行為、内なるものですけれど、そんなふうに行動を生み出す力があるんじゃないでしょうか。

 番組自体も読書のように、聞いている方の心のなかで自然と扉が開いて、次のアクションに移っていく、そんなきっかけになれたらと思っています。

 第1回は松浦弥太郎さんをお迎えして、松浦さんが代表を務めるこちらの「COW BOOKS」でお話を伺ったんですけど、それこそ話が本からいろいろなところに発展していって、おもしろかったです。

2021.04.05(月)
文=新田草子
撮影=榎本麻美