父親を刺殺し、「動機はそちらで見つけて下さい」と警察に言い放った女子大生=環菜(芳根京子)の事件を機に、様々な人間模様が複雑に絡み合っていく、島本理生原作の「ファーストラヴ」。
“稀代の問題作”とも呼ばれ、直木賞を受賞したベストセラーでもあるサスペンス・ミステリーが日本映画界を代表するキャスト・スタッフで完全映画化されました。
2021年2月11日(木・祝)の公開を記念して、原作者である島本理生さんと映画の主人公・由紀を演じられる北川景子さんが対談。
映画の見どころや作品に込められた思いについて語ってもらいました。
デビュー以来初のショートカットは役へのこだわりのため
――環菜を取材する公認心理師=由紀という主人公を演じられた北川景子さんは、今回この役のためにデビュー以来初のショートカットにされたことも話題になりましたが、やはり原作から得たインスピレーションは大きかったのでしょうか。
北川 そうですね。まず公認心理師という特殊な職業の役を演じるにあたって、専門的な知識や情報を集めることから始めたのですが、実際の公認心理師の方にお会いして私自身もカウンセリングを受けさせてもらう時間を作ってもらったことは大きかったと思います。
公認心理師の方の目線の動かし方や口調、患者さんと接する時の振る舞いなどは随分参考にさせていただきました。髪の毛を切ることに関しては、島本先生の原作を読ませていただいた時に、すごく意味があるというか大切な要素だと思ったのでどうしてもウィッグで対応する気持ちになれなかったんです。皆さんから「切っていいですよ!」とGOが出た時は本当に嬉しかったです。
由紀は昔、(一時的に親しい関係にあった)迦葉(中村倫也)に「短い方がいいんじゃない?」と言われたことを引きずっているわけですし、それが今の由紀の人格形成に多分に影響を与えていると思ったので、髪を短くすることへのこだわりは私自身とても強かったですね。
北川さんの由紀からは包容力や優しさが感じられました
――島本さんは北川さんが由紀を演じられるとお聞きした時は、率直にどんな印象を持たれましたか?
島本 こんなに素敵な由紀に決まるなんて! とびっくりしました。
映像化したらいいな、とは考えつつ、小説を書いている時には具体的な方をあまり想像してしまうと、キャラクターが美形になり過ぎてしまうので、極力しないようにしているんです。それが、まさか北川さんにやっていただけるとは思わなかったので本当に驚きました。
以前から北川さんの作品はいろいろと拝見していて、本当に素敵な女優さんだと思っていたので……。
北川 ありがとうございます。
島本 映画を拝見して本当に素晴らしかったんですが、一番印象的だったのは私が書いた原作の由紀に比べて、北川さんが演じてくださった由紀には包容力や優しさを感じられたこと。
映画の由紀は、心を閉ざしていた環菜が自分の過去やトラウマを打ち明けて委ねるだろうという安心感がすごくあったんです。そこの説得力が北川さん自身の雰囲気や、セリフのないところでの細やかなお芝居などから感じられたのはとても印象に残っています。
北川 嬉しいです。そこは私自身も迷いながら演じていた部分だったので、今先生のお言葉を聞いてようやく「あ、大丈夫だったんだな」と思えました。
原作の由紀のキャラクターを大事にしたいという思いはもちろん強くありましたが、私が原作や脚本を読んだ時に最初に感じたのは、作品全体のテーマは重たいにも関わらず、とても「清々しい」という読後感だったんです。何かが浄化されたような清々しさを感じて、温かい気持ちにさえなれた。
そのためには環菜が一度すべての感情を吐露できる相手として由紀がいなくてはならないと思ったので、由紀があまりにも情緒不安定だと環菜が戸惑ってしまうのかなと堤 幸彦監督とも話し合いながら(映画の)由紀を作っていきました。
思わずあのシーンは泣いてしまいました!
――由紀と環菜の面会室での魂のぶつかり合いのようなシーンは、間違いなく本作のハイライトですね。
島本 あそこは泣きました!
自分の小説というものを離れて、ひとつの映画として感情が大きく動かされるシーンでしたね。由紀と環菜の信頼関係が言葉以上に“見えた”ように感じましたし、すごく緊張感のあるシーンなのに、それでいて大きな救いや解放感があったことに不思議な感動を覚えました。
北川 あそこは環菜が芳根さんだから私もできたシーンだと思います。演技ではない感情が溢れ出てきて、役と自分の境目が曖昧になる時間でした。役としては環菜に手を差し伸べる側として座っているんですが、アクリル板越しに由紀と環菜の顔が重なる瞬間、私もあるいはあちら側にいたかもしれないとすごく思ったんです。
由紀には我聞(窪塚洋介)という素敵な旦那さんがいて、ギリギリこちら側に踏みとどまっているけど、由紀と環菜の抱えている過去や心の傷は本当に似通っていますよね。何かのかけ違いひとつで、私があちら側にいたかもしれないという怖さは演じながらもずっと感じていました。
2021.02.13(土)
文=遠藤 薫
写真=榎本麻美
ヘアメイク(北川)=板倉タクマ(ヌーデ)
スタイリング(北川)=宇都宮いく子
ヘアメイク(島本)=中山芽美(e-mu)