5年前のことだ。『星ガ丘ワンダーランド』という映画の取材で、初めて中村倫也さんを取材した。そのさらに2年前、「ヒストリーボーイズ」という舞台を観たとき、「すごい俳優がいる」と思った。
どちらも初主演という点では共通しているが、舞台と映画では、俳優としての印象がまるで違う。舞台では、身体の内側で絶えず青い炎を燃やしているように見えたが、映像では、その目の奥に、心の中に抱えたとてつもない孤独を映しだす。
インタビューの冒頭で、「『星ガ丘ワンダーランド』以来の取材なんですが、あれからあれよあれよという間に……」と言いかけると、「ねぇ、売れちゃってねぇ。ハッハッハ」と照れくさそうに笑った。
(全2回の1回目。後編へ続く)
「もう『あんた誰?』って言われずに済むようになった」
――私が中村さんに最初に注目したのは、2014年の「ヒストリーボーイズ」という舞台でした。それから、17年の舞台「怒りをこめてふり返れ」でのお芝居で、「なんて魅力的な芝居をする人なんだろう!」と度肝を抜かれました。
あら。ありがとうございます(笑)。
――映画の取材なのに、舞台の話から入ってしまって恐縮なのですが、いわゆるお茶の間に認知されて以降の中村さんのお芝居は、特に映像では、ナチュラルな軽快さや抜け感のようなものを感じています。今回の映画『ファーストラヴ』は、自分自身の抱える過去の重さも内包しながら、女性2人の哀しみを受け入れていくという複雑な役でした。中村さん自身は、もともとはすごく熱量のある人なんじゃないかと思うのですが、映像では、ちゃんと肩の力が抜けているように見えます。俳優としては、その熱量の出力をどう調整しているんですか?
おっしゃる通り、僕が演じた迦葉という役は、感情をあまり表に出さない役です。“父親を殺してしまった”環菜の心をほぐしていく作業を、北川景子さん演じる由紀と一緒にやっていくときに、自分にまつわるいろんな厄介ごとはオブラートに包んだままにしている。
いわゆる“受け”の芝居が多い役だったこともあって、今回はそういう出力の仕方になったのかなと思います。
「役の心情を見る人にわかってもらうためには、ここはこう見せなきゃ」とか、「これだけはやらなきゃ」とか、そういう自分の中での決めつけとか、準備段階での気負いみたいなものは、どんどんなくなってきています。
もちろん、役によってある程度の準備が必要なものならやりますけど。
今回の芝居で、さっきおっしゃったような“抜け感”とか“軽快さ”を感じてもらえているのだとしたら、たぶん、中村倫也という俳優が、業界的にも、お茶の間的にも、ある程度受け入れてもらえたことがデカいのかもしれない。
なんかね、それまでは、「入国許可証」を持たずに、エンタメ街を歩いているような感じだったんですよ(笑)。
下手な芝居したら、「あんた誰? ちゃんと入国許可証持ってる?」って聞かれるんじゃないかってビクビクしてた。
でも名前が売れたら、入国許可証をいただいたようなもので、もう「あんた誰?」って言われずに済むから、ビクビクしなくていい。そういう気軽さが出るんじゃないですか。
年々、役を全うしすぎなくていいや、と思うようになってますね(笑)。
2021.02.05(金)
文=菊地陽子
撮影=榎本麻美
スタイリスト=戸倉祥仁(holy.)
ヘアメイク=Emiy