「自分が登れば登るほど山って高くなっていくんですよね」

――ある時期までは、いただいた役を全力で全うしなければというプレッシャーがあったということでしょうか?

 そうですね。特に今回の迦葉は、わかりにくい役ですし、それを観る人にわからせるんじゃなく、「わかりにくくてもいいや」と思ってやっているというか……。

 結局、人間なんて誰しも、簡単にわかった気にはなれないし、それを簡単にわからせるなんてできるはずはない。

 最近は、“人間を描くということは不確かなことなのかな”と思うようになっています。

――20代の頃のほうが、完璧主義だったんでしょうか? あるいは、自分の中で何か目標みたいなものを掲げていたんですか?

 いや、全然掲げてないです(笑)。単純に、真面目さの角が取れてきたとか、そんな感じですかね。

 もっといい言い方をすれば、若い頃よりも不確かなものを信じられるようになってきたというか。

 年齢を重ねる中で、「自分のこともよくわかってないしな」と思うようになりましたし、うん。

――“人間を描くことは不確かなこと”とおっしゃいましたが、テレビドラマに関して言えば、今の中村さんには大衆性が求められている部分があると思うんです。それについてはどうですか?

 楽しいですよ。媒体や作品や役によってやるべきことが変わるのが当たり前だと思っているし、そこを行き来するのも楽しいです。自分も飽き性だからいろんなことがやりたいし。

 わかりやすく目に見える形じゃなくても、その都度その都度形を変えて、自分らしさとか自分の色を出しているんだとも思いますし。

 求められる役を演じるだけでなく、その中で遊んでいる感覚もあります。

――役者人生全体を一つの山として考えた場合、目の前にそびえる芝居山を、今は何合目まで登っている感じですか?

 今のこの状況は、昔から見たら8合目9合目なのかもしれないですけど、自分が登れば登るほど山って高くなっていくんですよね。だからもう何合目とかよくわからないです(笑)。

 わかったことはただ一つ。自分が見える景色の一番高いところって、まだ先があるんだなっていうことだけ。

 役者に限らず、人生ってそういうものだと思うし。景色が変わるということは、自分が何歩か坂道を登った証拠でもあると思う。

 現場での居方や、自分なりの目標みたいなものは、どんどんシンプルになってきてますね。今はただ現場を楽しむだけです。

2021.02.05(金)
文=菊地陽子
撮影=榎本麻美
スタイリスト=戸倉祥仁(holy.)
ヘアメイク=Emiy