猛獣たちも喜んでます

吉本由美

 2016年の「するめ基金」では多くの方々からたくさんの支援金をいただき、感謝の思いでいっぱいです。

 そのたくさんのお金は支援先別に村上・都築・吉本の“するめ3人”で分けさせてもらい、“私の取り分である500万円”を甚大なる被害を受け、途中から比較的被害の軽かったエリアの部分開園はしたものの全体としては長期閉園やむなしという熊本市動植物園の復旧復興に使わせていただきました。

 地震直後、檻の被災でライオン、アムールトラ、ユキヒョウ、ウンピョウの猛獣5頭がいつ戻れるかわからないまま九州各地の動物園に避難しました。

 園のホームページは、地割れであちこちせり上がったアスファルトの通路、柵や獣舎の一部、遊具施設や東屋などの倒壊を知らせていました。ただでさえ予算の少ない動植物園、いったいどうする、どうなるの、と気を揉んでいるときの「するめ基金」なのでした。

 神はおられる、と天を仰ぎ見た私。動物と動物園好きの人間としては、お城より、名所旧跡よりまずは動物たちの救済、なのです。

 1年後、園長さんに支援金をお渡しするとき(500万円ですべてを救済できるはずもないので)猛獣舎のリニューアルに使ってくれるよう頼みました。

 そもそも旧態依然の飼育環境を不満に思っていたのでこれを機に快適な展示室に作り変えてほしい、と。それに対しての返答は、支援金でやれるのはあくまでも元通りにする「復旧」で、それより先は難しい……。

 ということで苛立っていたのでしたが、それから2年の歳月が流れ、その間4回、動植物園の未来についての意見聴取委員会に参加して、動物に優しい新しい環境作りをしつこくしつこく提言していたら、今年の2月、わずかですが私の意見も反映されたマスター・プランが出来上がったのです。

 園長さんが目を瞬かせていた猛獣舎のリニューアルも、満足とまでは行かないけれどある程度やっていただけました。すべては「するめ基金」、皆さんのご厚意のおかげです。猛獣たちに成り代わりまして御礼を申しあげます。ありがとうございました。

2020.04.14(火)
文=村上春樹、吉本由美、都築響一
撮影=都築響一、平松市聖

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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